うーん……、と考え視線を空に投げながら、持参したたまご蒸しパンにかじりつく。

にわかに考え始めたところで、急にいいアイデアが浮かぶわけもなく。


ちらりととなりの柏木さんを見れば、いつもの完璧な横顔のラインを保ったまま、小さな口にエビフライを運ぶところだった。


サクッと音を立てた衣が唇についていないか指先を当てて気にして。

もぐもぐと動く口は遠慮がちに音ひとつ立てずに。

こくんっと飲み込んだ喉の様子さえも、どこか……。


ああ、そっか。

そこで、初めて思い至る。



「(……緊張してるんだ)」



俺とだから、というよりはむしろ……。

孤高に咲く氷華には、だれも近づけないから……。



「(柏木さん、きっとだれかとお弁当食べること自体、慣れてないんだ……)」



俺が加藤たちとバカ騒ぎしているような時間を、きっと柏木さんは過ごしたことがなくて。

コンビニに寄り道したり、カラオケ行ったり、そういうの、もしかして。



『あたしは、新庄くんみたいな人になりたいって思っていたんです』

それは俺が思っていたより、ずっと切実で。


『あたしは、新庄くんの101番目の友達になりたいです』

とても、大切な気持ちを俺に聞かせてくれたんじゃないのか?



「(あー……、俺、マジでどうしようもないな)」



膝から崩れ落ちそうなぐらい恥ずかしい。脳天突くような後悔。



「(邪念だらけの浮かれポンチな俺、いますぐ死ね!!!)」



勢いに任せてぶんぶん頭を振ると、視界の端っこで柏木さんの肩がビクッと跳ねた。


目が合うと、やっぱりいつもの涼やかな視線。

動じていないように見えて、きっと心の中で素の柏木さんがおろおろしていて。



「(だったら、せめて今の時間を少しでも楽しく過ごしてもらいたい)」


俺といて楽しいって思ってもらえたら嬉しいけど……。

それをぬきにして、純粋に柏木さんの毎日の中に一瞬だけでも氷の溶ける時間があってほしい。