昼休み。

ここ数日、俺には大事な用事ができた。



「(柏木さん、ちゃんとついてきてるかな……)」



片手に朝のうちにコンビニで買っておいたパンをぶら下げながら、人気のない旧校舎にある中庭を目指す。


そうして、ちらっとその気配をさぐれば。


……うん、大丈夫そう。

少し離れたところから、控えめな足音。

間違いなく柏木さんだ。俺はもはや足音だけで、柏木さんを感じられる。


ほっとしながら、彼女とあまり距離は開かないように気をつけながら歩く。



数日前、俺のストーカー活動に勤しむ柏木さんがクソ男に絡まれて、とにかく彼女を守りたい一心で駆けつけたあと。



『あたしで、新庄くんの友達になれますか? 新庄くんは、あ、あたしの理想でっ、……し、新庄くんみたいに、なりたいんです……』



……あー、あの日のことを思い出すだけで、いろんな意味でやばい。


普段の何にも動じない美しさも、もちろんいい。これは言うまでもない。全人類共通の認識。この世の秘宝、柏木さん。

そんな誰もが知っている雲上に住む天女である柏木さんは、それこそみんなの理想なのに、だ。


でも、俺は……。

こんなふうに、頬を真っ赤に染めながら、必死に俺を見上げる姿とか。

熱のこもった瞳を潤ませて、一生懸命伝えようとしてくれる健気さとか。


小さな男の子に話しかけられて、ぱぁっと瞳を輝かせた自然な表情に。

何もないところで躓いて、変なポーズで何とか転ばずに堪えたちょっとだけ面白い様子に。(ほんとはすぐにでも助けたかった)


……率直に言おう。



「(可愛すぎて、全俺が泣いた……!)」