「もう先生が来る。席につきたいんだけど」

 眉間の皺を深くする御崎に、結希はハッと道をあける。ドアの前に立ち尽くしていた。
 だが――、と、結希は桐生と目を見交わしては、やはり御崎の姿を視線で追う。彼はそのまま授業を受けるつもりなのだろうか。

 そんな心配をよそに、御崎は頭にそれをくっつけたまま午前の授業を受けきった。
 同じ教室に居合わせるものだからふとした瞬間に視界に入って結希としては気が気ではなかったものの、特に問題が起きるわけでもなく無事昼休みを迎えることとなった。

 御崎が鞄を手に出て行くのを見るや、結希もその後を追う。いつも昼食をともにする友達には申し訳なかったが、今は正直それどころではなかった。

 見失った地点から検討をつけ、少々錆び付いたドアを押し開けて屋上へ出る。
 教師の許可なく出入りすることは禁じられているはずだが、特別執行委員は鬼が出現するであろう校内のあらゆる場所に立ち入ることが容認されていた。それは昨日から仲間入りした彼もすでに持つ権利で、緊急事態でないとはいえこの状況においては許される範囲のことだろう。
 
 空は晴れ渡ってとても青く、そして誰もいない。
 それでも鬼の気配を確かに感じて、ドアから壁伝いに回り込んだ日陰に、彼――彼らはいた。