いつも通りに登校した結希は、毎朝の変わらないはずの光景に少しばかりの違和感を覚え、教室の中を見回し首を傾げた。
 徐々に人数が増えてにぎやかになっていく教室を眺めながら、あ、と違和感の正体に気付く。毎朝結希が登校した時にはすでに着席していることの多い、彼の姿が見えなかったのだ。

 そんなこともあるだろう。そうは思いながら、彼にとっては鬼が見えるようになった昨日の今日ということもあり、なんだか落ち着かない気分でドアを出る。
 左右を見渡して、登校してきた生徒たちがそれぞれのクラスに向かう中にその姿が見当たらないことを確認して、一人首を捻る。通学鞄が机にのってはいるから、休みということはないはずだ。

「お、どうした?」

 不意に背後からかけられた声に結希が振り向くと、幼なじみの桐生朝臣(あさおみ)が身長に見合った大きな歩幅で歩んでくるところだった。
 軽く浮かべられた笑みはとてもよく見慣れたもの。血色のいい顔には、部活の朝練を終えたばかりなのだろう、まだ汗が残り、シャツの首元をゆるめていても暑そうだ。

「んー、どうしたってこともないんだけど……」