――憑かれている。
その言葉の向けられた先を振り返る。この場にいるのはもちろん特別執行委員のみ。見慣れた顔ぶれ、様子のおかしな者はいない。
しかし、おもむろに表情を失う――三年生女子。
「……ひまわりちゃん……!?」
木村真理は脱力したように、それでいて全身を緊張させたかのように、一瞬の痙攣。
みんな瞬時に警戒感をあらわに距離をとる。次第に強くなる鬼の気配。ピアノの鬼と同じ気配だ、斬られる寸前にその憑代を捨てて抜け出していたのだろう。
木村が白目をむく。なのに口元は笑みを形作り、……奇妙な光景に息を飲む。
鬼が実体あるものに憑くことは無機物、生物ともに過去から確認されてきているが、人間に、という記録自体残されていない。せいぜいが迷い込んだ犬猫や鳥類であり、仲間内が取り憑かれたのは、おそらく初めて。
「貸して」
眼鏡の男子生徒が、結希の手から実体がないはずの刀を取り上げる。そうしている間にも木村の様子は変異していく。
彼らの有する能力での攻撃は対鬼のものであり、物理的効果はない。つまり憑代とされたものにダメージを与えることはないと、そういった検証はすでに行われてはいる。だからといって身内に攻撃を繰り出すことに躊躇する。
そんな特別執行委員の面々を尻目に、彼は何気ない足取りで歩いていき……
ためらいなくその身体を、
「先輩……!」
両断した。
あまりにあっさりと目の前で展開した光景に、何人かが悲鳴のような声を上げる。
真っ二つになったかと思った身体からは血が飛ぶこともなく、ぐらりと傾いで倒れた。駆け寄った山本が木村を抱え起こすが意識はない。
「気を失っているだけだよ。問題ない」
刀を返して笑む彼に、結希は言葉も出ない。
音が消えたように静まった空間に、一日の授業の終わりを知らせるベルが鳴り響いた。