慌てて外に出た美鶴を父はぎろりと睨む。

「全く、主人が帰って来たのに出迎えもしないのか? ただでさえ不要なものだというのに礼儀もなっていないとは……しつけ直さねばならぬようだな?」
「っ!」

 握られた拳にぐっと力を込める父を見て、美鶴は記憶にある痛みを覚悟し身構えた。
 機嫌の悪いときの父はよく美鶴に手を上げる。
 娘とは――人とは思われていないのだ。
 父にとっての美鶴への暴力行為は、ものに当たるのと変わりないのだろう。

「もう父さん! そんなことより早く反物を拾って来させてよ」

 だが、今日は止める者がいた。
 春音が父の袖を掴み何かを催促(さいそく)している。

「おお、そうだったな。お前への土産の方が大事だ」
「そうよ、姉さんのことなんてどうだっていいじゃない」
「……」

 どうだっていい。春音の美鶴への感情はそれが全てだ。
 一応姉という認識はあっても、家族の枠組みには入っていない。
 いれば使用人のように使えるけれど、別にいなくとも何とも思わない。

 今も、父を止めて美鶴を助けたというわけではない。
 言葉通り、どうでも良かっただけなのだ。

 だとしても殴られなかったことにはほっとする。
 いくら死を待つ身だとしても、痛いのは極力避けたい。