驚きと、でも突っ込んではいけない気がして、私は黙っていた。徐々に指を絡め、しっかりと手を握られる。困り果てつつも、それを握り返してみると、少しだけ驚いたように彼の手が反応した。

 今は周りに人もいないのだから、夫婦のフリなんてしなくていいはず。それでも、しっかり握ってくる手を振り払えるわけもなく、溶け合う体温に身を委ねた。

「……誕生日なんて、そんなにいい思い出なかったけど、今日はいい一日だった。ありがとう」

「……どういたしまして。普段もそれくらい素直ならいいのに」

「俺はいつだって素直だよ」

「嘘だ、ひねくれものめ」

「うるさいゴリラ女」

「ゴリラ女に負けてたくせに」

「人間がゴリラに勝ってたまるか」

 そう言いあいながら、私たちの手は離れなかった。一体この行為に何の意味があるのか、問いただす勇気も雰囲気もなかった。

 普段と変わらぬ会話の中で、私たちはお互いしっかり手を握ったまま、熱を共有した。

 そして――心の奥底で、このまま離れがたい、なんて思っている自分に気づきながら。