初めは戸惑ったけど、それに決して楽な仕事ではないけど、私は十分感謝している。

「……舞香」

「今更だけどさ、パーティーで私を力いっぱい励ましてくれたのも、すごく嬉しかったんだよね。玲って性格悪いじゃん、育ってきた環境も違うし」

「サラリと性格悪いとかいうな」

「でも私と同じ価値観を持ってるんだ、って安心した。こう言ったら玲は怒るかもしれないけど、玲と私ってちょっと似てるとこあると思うんだよね。お互い親に苦労してるってとこがさ」

 少し笑ってみる。まあこっちは金も無かったからその分苦労もあったけど、玲は玲で違う苦労があったに違いない。親に振り回され、もがいていたのは同じだと思う。

 玲はこちらを見ないまま、ぽつんと言った。

「知ってるか。小学生の頃、授業参観で、親が来なかったのは俺とお前だけなんだ」

「え?」

 隣を見ると、彼は懐かしむように目を細めた。

「親が来なかったことが凄く恥ずかしくて、周りの同情の目も辛くて、そんな時隣のクラスの女子の家も来なかったって噂で聞いた。俺は落ち込んでる者同士仲良くしてやろうと思って、舞香を見に行った。そしたら、お前は全く落ち込んでなかったし、ゲラゲラ笑ってたんだよ」

「まあ、授業参観なんて来てもらったこと一度もなかったしなあ……」

「それがまた酷く悔しくてな。完全に逆恨みなんだけど、舞香にむかついて、だから貧乏人だって揶揄い始めたんだ。お前はこっちの揶揄いにも全然負けず飛び蹴りしてくるわけだけど」

「それで泣いて帰ったのね」

「だから泣いてないって!」

 玲が笑う。私もつられて笑った。

「それから何度も舞香にちょっかいかけに行ってはやられて帰ったな。ゴリラ女は強すぎた」

「ゴリラて」

「でも今思うと、俺舞香が羨ましかったんだ。吹っ切って強くいる舞香みたいになれたら楽だろうな、って思ってた」

 ややか細い声は、玲には珍しい。私は玲のように、何もない壁をぼんやり見ながら言った。

「それはね、私は一人じゃなかったから。勇太がいたでしょ。だから、参観日に親が来ないのは勇太も一緒だって思えた。だから耐えられたってだけ。玲は一人で耐えなきゃいけなかったから、きっと辛かったと思う」

 クズな親に期待することはすぐに諦め、勇太との暮らしを守ることが優先だった。勇太がいることで大変なことは多かったが、いることで救われたことの方が多かった。勇太の存在がなければ、私はここまで強くなれていない。

 玲が小さく笑う。

「弟思いだな。お前は本当に強い。この仕事を持ち掛けたのはほんの思いつきだったが、お前に任せてよかったと思う」

「……まあ、普通のご令嬢はあのイビリに耐えられないだろうね」

「だろうな、普通はそうだよ。正々堂々受けるのはお前くらいなんだよ」

 なんだか楽しそうに玲が笑う。するとふと、ソファに置いてあった自分の手に、玲の手が重なった。大きな熱い手が自分を包み込む。