自分の強い声が響く。彼女がちらりとこちらを見た。私が怒り狂ったり、もしくは悲しむ姿を期待している目だった。

「確かに私は親もおらず、裕福な家庭ではなかったので、あなた方から見れば底辺の人間でしょう。でもご存じですか? ずっと上を歩いているだけの人間より、底辺から上までの色んな世界を経験した人間の方が、ずっと視野も広く根性がある。一年後には、きっと今日自分で言った言葉を後悔なさると思いますよ。私はお二人に認めてもらえるまで、決して諦めませんので、覚悟しておいてください」

 信じられない、という顔で見られた。にっこりと返しておく。

 感情に任せて怒ったりするもんか、泣いたりするもんか。私をそこいらの女と一緒にしないでほしい。

 三千万という値段で買われた女は、そう簡単に引き下がらないのだ。

 それにしても、と思う。色々家の事を調べられたそうだが、借金の事が漏れていないようなのでよかった。まあ借金取りが来たのはあの一日だけだったし、幸いにも漏れなかったんだろう。何日も取り立てに来られていては、今頃近所の噂になっていたに違いない。

 またしても気まずい空気が流れる中、美味しいアイスを食べ終わり、コーヒーまで頂いた。玲は私に上出来だ、とばかりに笑いかけると、優雅に自分もコーヒーを飲んでいる。

 少しして、帰宅前にトイレだけ借りて行こうと席を立った。玲が場所を教えると言って一緒に着いてきてくれる。やたら長い廊下に出たところで、彼は小さな声で私に囁いた。

「想像以上の戦っぷりに、笑いをこらえるのに必死だった」

 そう言う彼は、確かに今にも笑いだしそうだ。私は眉をへの字にした。

「思いっきり喧嘩買っちゃった、これで大丈夫かな」

「インパクト抜群。これぐらいしないと、あっちに負けちゃうからな」

「本当に認めてもらえる日が来るの? あれ」

「お前の根性があれば大丈夫」

 玲がトイレに案内してくれる。私はお礼を言って、そのまま拝借した。ため息を吐きながら用を足し、まあ玲がああ言ってくれるならいいか、と持ち直す。手を洗ってトイレの扉を開けた時、目の前にメロンが揺れていたのでつい驚き足を止める。

「あ、ごめんなさーい」

 楓さんがトイレに並んでいたようだ。私はとりあえず会釈をし通り過ぎようとする。玲は見当たらないので、戻っているようだった。

「玲さんって、あなたのどこが気に入ったんでしょう? とびぬけた美人って程でもないし」

 突然そんな低い声がしたので振り返る。目を座らせてこちらを睨む楓さんがいた。