お義父さまも、やや顔を歪めて言った。

「あー、ご両親とも蒸発されているとか。それで弟が一人いらっしゃるんだったかな」

「ええ。そうです」

「あまり裕福ではないと」

「そうですね」

 否定しない私に、三人は嫌悪の表情を見せた。玲が私を庇うようにして言った。

「弟はかなり頭がいいらしいですよ。受験生ですが、将来に期待できます」

「え、そんな環境で進学出来るんですかあ?」

 楓さんが嘲笑った。私はすっとそちらを冷たい目で見る。向こうは面白そうに私を見ていた。

 そしてお義父さまも苦言を吐き出す。

「玲、残念だがこの世には家柄というものがある。うちと舞香さんでは明らかに釣り合っていない。二階堂のためにも、もっといいところの人と結婚出来なかったのか」

「時代遅れですね。お父さんとお母さんの頭は大分昔で止まってる。これほど自由になった時代に、家柄を気にして結婚するなんてありえないですよ」

 きっぱり言い切った玲に対し、お義母さまがわざとらしくため息を吐いた。そして視線を落として声を漏らす。

「反抗的な口を......昔はもっと素直だったのに。誰が育てたと思ってるのかしら」

 その言葉にすぐさま反応したのは玲だ。彼は驚くほど冷たい声で言ったのだ。

「お言葉ですが、金は出してもらったでしょうが、俺を育てたのは家政婦と畑山さんです。忘れてしまったんですか?」

 つい隣を見た。彼は真っすぐお義母さまを見ていた。

 今まで、玲の家庭環境を疑問に思うことは多々あった。嫌だと言っている相手との結婚、彼の言葉を信じず楓さんを信じたこと。そのモヤモヤは今ようやくハッキリした。玲はやはり、この親たちとちゃんとした『親子』を築けていないのだ。

 私とどこか似ているのかもしれない、と思った。玲の家はお金や権力があるのでうちとは大きく違うが、親から十分な愛情を得られなかった部分は、共通しているのだ。