「そんな、強がらなくても……素直におっしゃった方がいいかと」

「別れて半年経ってないのに結婚してるとか嘘だろ。しかもうちの会社みたいないいとこの男なんて、お前には捕まらないって」

 捕まってたのはどこのどいつだよ。こいつ記憶能力ゼロか?

 私ははあと息を吐く。

「夫はここの会社の社員ではないです。勘違いしてるようですけど、私二股掛けるような男には未練なんて全くないですし、人の男を寝取るような女性にはぴったりだと思ってます。どうぞお幸せに」

 涼しい顔でそう告げる。二人の顔が真っ赤になった。そもそもお前は一話の登場で終わりのはずだったんだよ、何登場してんだ。誰も待ってないぞ。

 和人がカッとなって言った。

「お前、何を生意気に……!」

「舞香!」

 凛とした声が聞こえた。そちらに目を向けると、玲が走ってこちらに来ていた。私はほっと息を吐き、二人を無視して持っていた封筒を差し出す。

「はい、どうぞ」

「助かった、ありがとう」

「ううん、全然平気」

 私たちのやり取りを、二人は唖然として見ている。特に女の方は、玲の横顔にくぎ付けだ。まあ、自慢じゃないが玲は性格の割に顔がいい。和人よりよっぽど整っている。

 見られているのに気が付いた玲が不思議そうに首を傾げた。

「知り合いか?」

「うーん、知り合いと言えば知り合いかな」

「ふうん。妻がお世話になっております、二階堂玲です」

 玲はスマートな仕草で名刺を取り出した。和人はぽかんとしたままそれを受け取る。そして貰った名刺を覗きこみ、目玉が零れ落ちそうな程見開いた。

「二階堂って……え!? はあ? 舞香が二階堂の御曹司の結婚とか嘘だろ?」

「え、あの二階堂の!?」

「い、いやいや……舞香騙されてないか? こんな短期間で結婚って、いくらなんでもおかしいだろ、釣り合ってなさすぎる。お前は俺に捨てられて寂しく暮らしてるもんだと」

 玲本人を目の前にして、和人はそんなことを言った。瞬時に、玲の目が鋭く光る。どう考えても、和人の会社より玲の会社の方が大きいのに、何も考えなしに発言したようだ。

 そして玲は、低い声で淡々と言った。