スーツを捲って腕を見せつけてくる玲に少しだけ笑うと、私は置いてあった招待状を手に取り、再びため息を漏らした。

「なるほどねえー玲も来られない場所、ってなると、キツイもんがあるなあ。伊集院さんって?」

「うちとは切っても切れない仲だ。一番重要な仕事相手と言ってもいいかもしれない。うちより金持ちかもしれないぞ」

「どっひぇー」

「そこの奥さんはこういうお茶会みたいなのを開くのが好き、っていうのは聞いたことがあった。でも男は入れないから、噂でしか知らない。何度か会ったことはあるが、個人的な話なんかしたことないし」

「ううん、情報が少ない……」

「とりあえず、作法とかに厳しい人っていうのだけは知ってる」

 作法。畑山さんにしごき倒されたので、それなりに身についていると自負しているが、それでもたった二か月で習得しただけのもの。どこかでボロが出るかもしれない。いや、あの二人はボロを出させようとするかもしれない。

 私は天井を仰ぐ。

「んでもって手土産もいるのかー。金持ちの奥さんが好きそうな甘味、ってなによ。和菓子か洋菓子かも好みあるだろうし、フルーツにしても種類は膨大だし。センス問われるのは間違いないじゃん」

 積んだぞ。これは流石に私も気分が落ちてしまっている。玲もあまりよく知らない相手となれば、対処のしようがない。私は嘆く。

「いっそ当日熱でも出そうかなあ。いやでも、それはそれで誕生日会すっぽかしたことになってよくないよなあ」

「日付を見ると、まだ一か月以上あるのか……」

「でも、二階堂にとってもかなり重要な相手っていうなら、その奥さんに認められれば、一気に私の立場もよくなるよね? 逆に嫌われたらやばいけどさ……凶と出るか吉とでるか。リスクは大きいけどなあ」

 玲も珍しく困ったように顔を歪めている。

「ただの女同士の会なら、舞香一人でもう十分いいと思ってる。しかしそこに母親と楓がいるというのが不安要素としてでかすぎる」

「だよねえーんでもって情報も少ないしー」

 そう口に出した途端、ふと思い出したことがあった。色んな会社の奥さんとか集めた女子会……。もしかしたら。

 がばっと顔を持ち上げた。勢いよく玲の方を見る。

「ねえ玲。ちょっとだけ、試してみたいことがある!」