「二階堂の嫁ならば、それに参加しないといけませんからね」
「これは……?」
招待状のようだった。誰かの結婚式かもしれない。私は手に取り、それを開いてみる。だがそれは結婚式の招待状ではなかった。『伊集院薫 誕生会』という文字が見えた。
まさかの誕生日会。どっかの小さなご令嬢の生誕祭だろうか? 私はちらりと隣の玲を見る。
彼はわずかに眉をひそめていた。玲はもちろん誰の事か分かるらしい。
マミーが口を開いた。
「伊集院さまは、昔から二階堂と深く繋がりのある、とても大事な方です。奥様はお茶会などを開くのがお好きな方で、誕生日も毎年人を呼んでお祝いされます。今年も招待状が来ました。二階堂の人間ならば、あなたも参加するのが道理です」
なんと、どこかの金持ちの奥様の誕生日会とは。てっきり小さな子供の誕生会と思ったのに、金持ちはさすがやることが違う。お茶会って、貴族かよ。
私より先に、玲が口を開いた。
「これって確か、女性ばかり集められるパーティーですよね」
「ええ、そうです。パーティーと言っても、それほど大きな規模のものではありません。有名な企業の奥方や娘さんを集め、皆でお茶をしましょう、というものです。昔から、伊集院さまのお茶会では、いろんな人と交流を持てる、よき場になっています」
ピンときた。ということは、玲は参加出来ないということか。
つまりは金持ちの奥様だけを集め、きゃっきゃうふふと、女子会する。そこに私も呼ばれたというわけだ。相手の魂胆が見えてきた。
この流れなら、恐らく楓さんも呼ばれているんだろう。玲は来れないその場で、私にどうにかして恥をかかせるつもりではないか。玲も、圭吾さんもいない場では、フォローしてくれる人がいないからだ。
玲は苦い顔をする。
「伊集院さんは作法などに大変厳しい方と伺っています」
「よく知っているわね、玲。でも二階堂の妻である舞香さんなら、大丈夫でしょう。あなたが選んだ結婚相手ですよ? まさか不参加なんて言いませんよね。伊集院さまはがっかりされますよ」
鋭い目で玲と私を見る。参加しない、という選択を排除しにかかってきているようだ。
さすが、マミーだ。これは中々厳しい状況に追い込まれたぞ。私一人で、この性悪女たちに囲まれ、作法に厳しいと有名な奥様のところへ遊びに行けとは。罠がありそうだなあ……でも断るのもなあ……。
玲が困ったように視線を泳がせた。そんな彼に有無言わさず、マミーが立ち上がる。
「招待状は確かに渡しました。当日お会いできるのを楽しみにしています」
「母さん!」
「では、楓さん行きましょうか」
そう言うと、マミーはさっさと部屋から出て行ってしまったのだ。私と玲は顔を見合わせる。断るのは無理そうだ。
そこでずっと黙っていた楓さんが口を開いた。にっこりと笑って私に言う。
「舞香さんなら大丈夫ですよお! こんなに素敵な女性なんですもの、伊集院さまも気に入ります」
「は、はあ」
「あ、伊集院さまのお誕生日ですからね? ちゃーんと相手が気に入るような手土産をお持ちくださいね? 伊集院さまは甘いものに目がないのですが、その分とても味にこだわりをお持ちです。伊集院さまに気に入られるような甘味を、舞香さんが探し出せるといいんですけどね……」
ふふっと笑ってこちらを見てくる。そして、彼女も立ち上がり、玲に甘い声を出した。
「玲さん。お顔を見れてよかったです。ここ最近お会いできてなかったから、私寂しくて……玲さんが気が向いた時でも、声を掛けてくれれば、私はいつでもお付き合いしますからね、いつでも待っています」
妻の前でなんてことを言うんだこの女は。呆れて物も言えない。
そして、やっと楓さんが部屋から出た。ぱたんと扉が閉じられた途端、私と玲のため息がシンクロした。玲は嘆く。
「あいつの最後の発言のせいで、さぶいぼ立った」
「楓さんの扱い」
「見ろこれ、まじでホラー映画より怖い」
「だから楓さんの扱い」
「これは……?」
招待状のようだった。誰かの結婚式かもしれない。私は手に取り、それを開いてみる。だがそれは結婚式の招待状ではなかった。『伊集院薫 誕生会』という文字が見えた。
まさかの誕生日会。どっかの小さなご令嬢の生誕祭だろうか? 私はちらりと隣の玲を見る。
彼はわずかに眉をひそめていた。玲はもちろん誰の事か分かるらしい。
マミーが口を開いた。
「伊集院さまは、昔から二階堂と深く繋がりのある、とても大事な方です。奥様はお茶会などを開くのがお好きな方で、誕生日も毎年人を呼んでお祝いされます。今年も招待状が来ました。二階堂の人間ならば、あなたも参加するのが道理です」
なんと、どこかの金持ちの奥様の誕生日会とは。てっきり小さな子供の誕生会と思ったのに、金持ちはさすがやることが違う。お茶会って、貴族かよ。
私より先に、玲が口を開いた。
「これって確か、女性ばかり集められるパーティーですよね」
「ええ、そうです。パーティーと言っても、それほど大きな規模のものではありません。有名な企業の奥方や娘さんを集め、皆でお茶をしましょう、というものです。昔から、伊集院さまのお茶会では、いろんな人と交流を持てる、よき場になっています」
ピンときた。ということは、玲は参加出来ないということか。
つまりは金持ちの奥様だけを集め、きゃっきゃうふふと、女子会する。そこに私も呼ばれたというわけだ。相手の魂胆が見えてきた。
この流れなら、恐らく楓さんも呼ばれているんだろう。玲は来れないその場で、私にどうにかして恥をかかせるつもりではないか。玲も、圭吾さんもいない場では、フォローしてくれる人がいないからだ。
玲は苦い顔をする。
「伊集院さんは作法などに大変厳しい方と伺っています」
「よく知っているわね、玲。でも二階堂の妻である舞香さんなら、大丈夫でしょう。あなたが選んだ結婚相手ですよ? まさか不参加なんて言いませんよね。伊集院さまはがっかりされますよ」
鋭い目で玲と私を見る。参加しない、という選択を排除しにかかってきているようだ。
さすが、マミーだ。これは中々厳しい状況に追い込まれたぞ。私一人で、この性悪女たちに囲まれ、作法に厳しいと有名な奥様のところへ遊びに行けとは。罠がありそうだなあ……でも断るのもなあ……。
玲が困ったように視線を泳がせた。そんな彼に有無言わさず、マミーが立ち上がる。
「招待状は確かに渡しました。当日お会いできるのを楽しみにしています」
「母さん!」
「では、楓さん行きましょうか」
そう言うと、マミーはさっさと部屋から出て行ってしまったのだ。私と玲は顔を見合わせる。断るのは無理そうだ。
そこでずっと黙っていた楓さんが口を開いた。にっこりと笑って私に言う。
「舞香さんなら大丈夫ですよお! こんなに素敵な女性なんですもの、伊集院さまも気に入ります」
「は、はあ」
「あ、伊集院さまのお誕生日ですからね? ちゃーんと相手が気に入るような手土産をお持ちくださいね? 伊集院さまは甘いものに目がないのですが、その分とても味にこだわりをお持ちです。伊集院さまに気に入られるような甘味を、舞香さんが探し出せるといいんですけどね……」
ふふっと笑ってこちらを見てくる。そして、彼女も立ち上がり、玲に甘い声を出した。
「玲さん。お顔を見れてよかったです。ここ最近お会いできてなかったから、私寂しくて……玲さんが気が向いた時でも、声を掛けてくれれば、私はいつでもお付き合いしますからね、いつでも待っています」
妻の前でなんてことを言うんだこの女は。呆れて物も言えない。
そして、やっと楓さんが部屋から出た。ぱたんと扉が閉じられた途端、私と玲のため息がシンクロした。玲は嘆く。
「あいつの最後の発言のせいで、さぶいぼ立った」
「楓さんの扱い」
「見ろこれ、まじでホラー映画より怖い」
「だから楓さんの扱い」