言われた通り受付で名前を言うと、少しして圭吾さんがやってくる。見慣れた顔にほっとし、表情が緩んだ。

「舞香さん、お待たせしました!」

「いえ、圭吾さんお疲れ様です」

「こちらへどうぞ」

 二人で歩き、エレベーターに乗り込む。そわそわして周りを観察したい気持ちだが、必死に抑えて平然と努める。私は玲の妻なのだから、周りから見られても恥ずかしくない言動を心掛けねば。初めて玲のマンションに行った時はアホ面してしまい彼に注意されたが、今はあんな失態は犯さない。

 ピカピカに磨かれた廊下を進んでいくと、応接室に辿り着いた。圭吾さんが小声で言う。

「なんの用件か、教えてくれないんですよね奥様」

「うーん、喧嘩を売りに来てるとは思うんですけど」

「はは! 玲さんは先に中にいるので、どうぞ。頑張ってください」

 圭吾さんが励ましてくれる。私は頷き、一つ深呼吸をすると、部屋の戸をノックした。

「どうぞ」

 中から玲の声がする。それを聞いただけでも、緊張は少し落ち着いた。私は丁寧に戸を開く。すぐに視界に入ってきた光景に、内心舌打ちした。

 またメロンつきか。

 ゆっくりと頭を下げる。

「お義母さま、お待たせして申し訳ありません」

 玲の向かいに腰かけているのは、勿論マミーだ。その横に、赤いリップで唇を彩らせている楓さんもいた。二人はセットらしい。

 マミーは合い変わらず厳しい表情で私を見ていた。あの視線、浴びるの一か月ぶりだなあ。闘争心が燃えるってもんだ。

 私は玲の隣りに移動し腰かける。マミーがふうとため息をついて言った。

「本当に待ちましたが、まあアポイントも取らず来てしまったのはこちらなので、仕方ないですね」

 お、どうした? 常識人みたいな発言をしているぞ?

 私は笑顔で問いかける。

「今日はどうなさったんですか? 楓さんもご一緒だなんて」

 ちらりと見ると、楓さんは敵意を隠そうともせず、冷たい目で私を見ていた。そんな横で、マミーが鞄から何かを取り出す。白い紙のようだった。それを机の上に置き、私の方に滑らせる。