「キャア!!」
育美は悲鳴をあげてがむしゃらにモップを振り回した。

運良く2度、3度と相手の体に当たる。
だけど男子生徒はびくともせずに育美へ向かって歩いてくる。

「ダメだ。そいつは手強い! そのまま走って逃げろ!」
明宏が叫んだ。

ゾンビを相手にせずに逃げるのはゲームでもよくやるテクニックだった。
主に最速でクリアしたいときに使う。
「逃げるって言われても!」

育美は屈強なソンビを前にして足がすくんで動けなくなってしまった。
モップを振り回してももう少し当たらない。
やがて振り下ろしたモップの端をゾンビが掴んでいた。

「あ……」
育美の小さな呟きが聞こえてきたと同時に、ソンビがモップをもぎ取っていたのだ。
「くそっ」
明宏が額に汗を浮かべてソンビへ向けて駆け出した。