「どうしたの?」
千歳の問いかけに「見ないほうがいい」と簡潔に答える。

だけど隠されると余計に気になってしまう。
更に詰め寄ろうとしたとき、今まで後ろにいた育美が男子トイレの前に立った。

「おいっ」
明宏が止めるまもなく、育美はドアを開けていたのだ。
ムワッと溢れ出してくる生臭さ。

その中には血の匂いも混ざっていて、長くかいでいると気分が悪くなってくる。
千歳は育美の肩越しにトイレの中を見てしまった。

トイレの中は床も壁も天井までも血で汚れていて、中央に誰かがうつ伏せで倒れているのが見えた。
体の横にはモップが落ちている。

「うぇっ」
育美が小さく嗚咽を漏らして女子トイレへとかけた。
「今のは?」

「たぶん、杉川だ。顔は見えなかったけど、モップが落ちてただろ? あれは昨日片付けずに置いておいたやつで間違いないと思う」