年のために手前のトイレのドアを開ける。
中はガランとしていて綺麗なものだった。

昨日の朝から誰も使っていないんだろう。
普段は教室のある2階から3階のトイレを使うことが多いから、1階のトイレに入る生徒は少ない。

女子トイレのドアをしめて更に一歩進む。
男子トイレの前で足を止めて明宏はひとつ深呼吸をした。

きっとこっちにも誰もない。
杉川が育美に『トイレ』と伝えたのは逃げる口実に使っただけだという気が、千歳にはしていた。

しかし明宏が男子トイレのドアを開けた瞬間にムワッとした生臭い匂いが流れ出てきて千歳は顔をしかめた。
同時に嫌な予感が胸をかすめる。

ドアの前に立つ明宏が「うっ」と唸り声を上げて口に手を当てた。
そしてすぐにドアを閉めた。