明宏が育美に近づいていく。
それでも育美は小首を傾げて「は?」と、挑発的な返事をした。

「昨日の夜、お前」杉川を誘惑してただろ」
その言葉に教室の空気が氷りついた。

今起きたばかりの四条姉妹もオロオロした様子で状況を把握しようとしている。
昨晩のことを明宏も知っていたようだ。

そんなにすぐに眠ることはできなかっただろうから、見ていても仕方なかった。
「はぁ? 何言ってんの?」

強がっているけれど、育美の声はかすかに震えている。
さすがに自分が男子生徒を誘惑した場面を見られていたことは、育美にとっても恥ずかしいことなのかもしれない。

「お前があんなことするから、杉川は教室から逃げたんだ」
「人のせいみたいに言わないでよ。あの人は自分から勝手に廊下へ出ていったんだから」

育美も負けじと言い返す。
ふたりの間に剣呑な空気が漂い始めた。