それに合わせて他の4人も息を吸い込み、そして「久子さん、久子さん、おいでください」と、唱え始めた。
5人の声が空き教室に響き渡る。
床に積もったホコリが声の振動で少しだけ舞い上がって、そしてすぐに落ちていく。

同じ呪文のような言葉を3度繰り返したあと、5人は無言になって互いの目を見交わせた。
特になんの変化も見られない教室内。
とても静かで、5人の息遣いだけが聞こえてくる。
薄いカーテンからは夏の日差しが差し込んできていて、徐々に室温も上がってきている。

しばらく待ってみたけれどなにも起きない。
それを確認して1人が大きく息をはいた。
無意識の内に呼吸を止めてしまっていたみたいだ。

緊張感が一気に体から抜け落ちていく。
他の4人もホッとしたように力をぬいて、互いに目配せをして笑い合う。
「ほら、なにも起こらなかった」

「この伝承もただの嘘だったね」