身を屈めて杉川に近づいたかと思うと、その唇にキスをしたのだ。
千歳の意識は一気に覚醒してしまった。

何度もまばたきをして夢を見ているようだと思ったことが現実だと理解する。
育美は杉川を誘っているのだ。

こんな、みんなが同じ教室で眠っているところで。
そう理解すると体の奥がカッと熱くなるのを感じて慌ててきつく目を閉じた。

見てはいけないものを見てしまった。
心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。

昼間廊下へ出たときとは違った緊張感が千歳を支配した。
育美はまだ誘惑を続けるつもりのようで、衣擦れの音がかすかに耳朶を揺るがしてくる。