その口元に笑みが浮かんだ。
本当は動いた瞬間に首がカクンッと振動して、それによって口元が揺れただけだった。

だけど千歳にはそれが微笑みかけてくれたように見えた。
「今カオリが笑いかけてくれたよ!? ちゃんとわかってるんだよ」

千歳は嬉しくなって自分からカオリへ近づいていく。
カオリは他のゾンビたちと同じように両手を前に突き出して前進してきている。

そしてその両手が千歳の肩に触れた。
「カオリ、私だってわかってるんだよね?」
千歳が語りかけた次の瞬間、両肩に乗せられている手に力が入った。

グイッと一気に引き寄せられると同時に、カオリの口が大きく開く。
ガバリと開かれた口からは犬歯が突き出して見えた。

「え……」
呆然と立ち尽くす千歳の首にカオリが噛みつこうとした瞬間だった。