トイレの花子さんやこっくりさんは小学校の頃にすでに経験済みだ。
どれもインチキで、友人の誰かが驚かせるためにトイレに隠れて声を出していたり、指先に力を込めてコインを動かしているだけだった。

今回だってどうせその類のものだ。
久子さんという伝承は高校に入学してから知ったけれど、前のふたつと大した変化はないはずだ。
「笑っちゃダメ。真剣にやって」

儀式を進めようとする生徒がふたりを睨みつける。
「ごめん」
小さく謝って真剣な表情に戻った。

どうせなにも起きないとわかっていても、こういうときは真剣にやらないといけない。
じゃないと面白さも半減してしまう。
「じゃあ、行くよ」

進行役の女子生徒が一度大きく息を吸い込む。