だけど心の中では怒りに燃えていた。
自分はなにもしていない。

それなのになんでこんな目にあわないといけないのか。
なぜ、誰も助けにきてくれないのか。

物置には古い鏡があり、それが久子の姿をずっと映し出していた。
だんだんと弱っていく自分の姿を久子はジッと見つめていた。
憎い……、

憎い憎い憎い。
久子は鏡の中の自分を見て思った。
このまま死ぬことになるのは憎い。

なぜこんな目にあわないといけないのか、憎い。
私がなにをした、憎い。
久子の思念は死ぬ間際まで鏡の中に注がれ続けた。

憎い憎い憎い憎い憎い。
そしてその気持は鏡の中に封じ込められた。
寒さで震えながら、久子の命が消えていったのだった。