久子はぐんぐん成長した。
なにもかもが順調に見えたが……。

「久子は綺麗になった」
「女中の久子に縁談はないのか」

久子が14になるころ、屋敷内にはそんな声が囁かれるようになった。
すっかり色白になり、背もスラリと高くなった久子は目をひくような美人に成長していたのだ。

それを見た来客たちは必ずご主人や奥様に久子のことを訪ねた。
そのたびにふたりは「まだなにも決めていないのよ」「まだ、もう少しうちで働いてもらわないと」と、返事をした。

奉公先で結婚相手を見つけてもらうことは珍しいことではなかった。
だから久子は密かにその時を待っていたように思う。

だからある日、仕事を終えて自分の寝床へ向かった久子をご主人が呼び止めた時、ついに縁談の話が来たのだと感じた。
ここへ奉公へ来てもう6年もなる。