それなのに今、自分たちは誰も居ない工場で眠っている。
その現実を受け入れるのが、ひどく苦痛だった。

「千歳、大丈夫か?」
明宏の声が聞こえて完全に意識が浮上する。

目を開けると心配そうな明宏の顔が目の前にあった。
少し顔色が悪く、肌がただれてきている。

その様子を見た千歳はすぐに起き上がって明宏に近づいた。
そしてキスをする。

冷たくて体温のない唇に、徐々に体温が戻って来る。
それを確認してホッと息を吐いて身を離した。

「おはよう明宏」
「あぁ、おはよう」

挨拶をかわしながら千歳は明宏の結束バンドをペンチで断ち切る。
パチンパチンと高い音が工場内に響いた。