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千歳は夢を見ていた。
それは幸せな頃の夢だった。

夢の中ではテスト最終日を迎えていて、テストが終わった直後の教室内の様子が広がった。
『やっと終わった~!』
両手を伸ばして大きな声で言うのは育美だ。

その顔には開放感が溢れている。
テストから解放されて喜んでいるのは育美だけじゃない。

四条姉妹はホッとしたように表情を崩しているし、田中と村上もすぐに私語を始めている。
杉川は教科書を取り出して熱心に問題の解き直しをして、明宏は千歳と視線をかわした。

千歳と明宏はふたりにしかわからない言葉を交わす。
終わったね。

夏休み、なにしようか。
ほんの一瞬の目配せで互いがそう言っていることがわかる。

ほんの些細な、日常の一コマだ。
気がつけば眠っていた千歳は涙をこぼしていた。

こんな未来が来ることが当然だと思っていた。