工場は森の手前に建っていることで夜になると空調がなくても快適に眠ることができた。
ゾンビたちの徘徊音がどこか遠くの方で聞こえてきていて、この周辺にはいないことがわかった。

「少し寝よう」
明宏に言われて千歳は頷く。

ここまで逃げてきてさすがに疲れが溜まってきていた。
体力的にも精神的にも休まることがないから、眠気はピークだ。

そう思っていると明宏がなにかを見つけたのか戸棚へ向かって歩いていく。
そして持って戻ってきたのは結束バンドだった。

「千歳が眠っている間に俺がゾンビ化するかもしれないから」
そう言い、器用に自分の手首に巻いていく。

「そんなことしなくていいのに」
慌てて止めようとするけれど、明宏はあっという間に自分の手足を拘束してしまった。

「俺にはこれくらいのことしかできないから」
明宏はそう言うと、壁を背もたれにして目を閉じたのだった。