千歳と明宏は手近なトイレに入り、個室で鍵をかけて呼吸を整えた。
「どうして俺を助けてくれたんだ?」
「だって……ほっとけなかったから」

千歳は素直に答える。
あのまま明宏を見殺しにしていたら、きっと自分が後悔した。

明宏は本当に最低だと思うけれど、それでも自分のことを守ってきてくれた人だから。
「本当にごめんな」
明宏は申し訳なさそうに呟く。

「本当に最低な男だと思うよ。いつから若葉のことが気になってたの?」
『好きだったの?』とは聞けなかった。
こんなときでも、彼女としてのプライドが残っている。

「たぶん、一ヶ月前くらいからかな」
「ごまかさなくていいから」
好きになるきっかけがしっかりとあったなら、それを聞かせてほしかった。

もしも街がこんな風にならなければ自分たちはどうなていたのか、知りたい。