時分は本当にバカだと思う。
自分のことを見捨てた男のことを見捨てることができないなんて。

千歳は顔を上げると涙で滲んだ顔で微笑んだ。
「ありがとう。気持ち、ちゃんと伝わったから」

それだけ早口で言うと千歳は村上の手に噛み付いた。
「うっ」

村上は声を上げて手を引っ込める。
そのすきにドアの鍵を開けて廊下へ出ていた。

「千歳!!」
村上が教室の中から叫ぶ。
その声は聞こえないふりをした。

廊下では若葉が明宏にのしかかり、もつれ合うようにして転がっている。
「た、助けてくれ!」
明宏が千歳に気がついて声を上げる。

千歳は若葉に近づいていくと、その横腹を思いっきり蹴りつけた。