田中が出ていった教室内はとても静かだった。
食料も飲料も武器もある。
けれどこれから先どうすればいいのかわからなくなっていた。

2階に位置しているこの教室の窓から外を確認すると、街を見渡すことができる。
道路のあちこちに徘徊しているゾンビたちの姿が見えて、すぐに絶望的な気分になってしまった。

「先生はなんて言ってた?」
不意に話かけられて千歳は「え?」と聞き返した。

「1度人間に戻ったんだろ? そのときなんて?」
「外に出て、街のバリケード周辺まで行けば誰かに助けてもらえるかもって」

「随分と遠いな」
村上がかすかに笑うのがわかった。
1階からだと見えない風景が、ここからだと見える。

村上たちからすれば、外に出てバリケードまで移動することが現実的じゃないことは、とっくにわかっていたことだったんだろう。

千歳は全身の力が抜けていってそのまま床に座り込んでしまった。