「早くしろ!」
田中に怒鳴られてビクリと体を震わせる。
千歳は恐る恐る立ち上がり、一歩真那へ近づいた。

真那が千歳へ濁った目を向ける。
同時に歯をカチカチと打ち鳴らした。
「無理……本当に無理だから」

そういいながらも足は一歩一歩真那に近づいていく。
後ろに回り込んだ田中が背中に包丁を突きつけているから、歩くしかないのだ。

千歳の額から汗が流れ落ちていく。
すぐ目の間に真那の顔があった。
ゾンビ化したその顔はただれて、可哀想なくらいだ。

同じ女としとして千歳の胸がチクリと痛む。
人間に戻すことができるのなら、千歳だって手伝ってあげたいと思う姿だ。
だけどそれは今にも襲いかかろうとしているゾンビにキスをすることだ。

こちらの危険が大きすぎる。