咄嗟のことでなにを言われたのか理解できずに聞き返していた。
すると田中は立ち上がり、段ボール箱の中から包丁を取り出して戻ってきたのだ。

その先端は千歳へ向けられている。
ギラリと光る鋭利な刃物を見た瞬間、体からスッと血の気がひいた。
「ずっとここにいたいんだろ? 飯だって食わせてやったんだ。恩返しくらいしろよ」

「そんな……!」
田中は両手で包丁の柄を握りしめてジッと千歳を睨みつける。

その後ろから村上が「やめろよ」と声をかけているけれど、田中は聞く耳を持たなかった。
ゾンビ化した田中の彼女はさっきから牙を剥いて獲物を捕獲しようと唸っている。

近づけばすぐに噛みつかれてしまいそうだ。
「無理だよそんなの……」
反論する声が恐怖で震えた。

あんな動画を見せて信用してもらったことが、悔やまれる。
だけどあれ以外にここへ来た説明を、どうすればよかったんだろう。
「無茶を言うなよ」