ようやく両思いになれて付き合って、この幸せを壊すようなことはできなかったんだ。
だから、今までずっと見て見ぬ振りをしてきた。

違和感だけが増え続けていたけれど、明宏から決定的な別れ話をされることもなくて、それならそれでいいと思い直してずるずるとやってきた。

「まだ明宏のことが好きなのか?」
村上が質問を変えてきた。
千歳は小さく頷く。

隠れ場所から追い出されたも同然の形でここにいるのに、自分でもおめでたいとわかっている。
だけど、好きな気持をそう簡単になくすことはできそうになかった。

村上が呆れた様子でため息を吐いたとき、ガタガタと音がして同時に振り向いた。
いつの間にか田中が掃除道具入れから彼女を出そうとしている。

両足首もロープで縛られているから、荷物みたいに肩に担がないといけない。
「なにしてる?」

「決まってるだろ。真那を人間に戻すんだ」
田中はそう言うと彼女の体を椅子に座らせた。