「どうしても殺せなかった」
田中の声が小さくなる。

目の前にいるのはゾンビだけれどきっと人間でいたときには可愛い子だったのだろう。
ゆるくウェーブのかかった茶色い髪の毛が、外見を気にするタイプだったことを物語っている。

切ない表情でゾンビ化した彼女を見ている田中に胸がチクリと傷んだ。
同時に明宏も若葉がゾンビ化したときに、本当は今の田中と同じような気持ちになっていたんだろうかと考える。

胸の中に再び黒い感情が湧き上がってきたので、慌ててそれを振り払った。
田中はジッと彼女を見つめた後、そっとロッカーを閉めたのだった。