「キャア!」
教室へ引き込まれた驚きで悲鳴を上げるが、すぐに口を塞がれていた。
「しっ、静かに」

小声で聞こえてきたその声に聞き覚えがあり、千歳は顔を向ける。
そこに立っていたのは同じクラスの田中という男子生徒だったのだ。

田中は育美と仲がよく、派手な生徒だ。
そして後ろから千歳の口を塞いでいた生徒が手を離して前に回り込んできた。

こっちは村上くんだ。
ふたりとも育美の友達だった。
ふたりの姿を見て千歳はホッと息を吐き出す。

知識を持ったゾンビが待ち構えていたのかと思ったが、ひとまず人間だったことに安堵する。

「驚いた。まだ人間がいたんだな」
田中が坊主頭をなでて呟く。
普段はその坊主と薄い眉毛が怖い印象を与えているけれど、今は笑った目元が可愛く見えた。

自分たち以外の生き残りに出会ったせいだろう。