だけど若葉とのやりとりを知っていた千歳にとっては大きな違和感となって胸に残った。
千歳は若葉へ視線を向ける。

若葉はその時、勝誇ったような顔で微笑んでいたのだった。
今思えば明宏の教科書には若葉宛になにか書かれていたのかも知れない。

誰にも気が付かれないように秘密のやりとりをするために、若葉はわざと教科書を忘れて、明宏が教科書を貸していたのかも。
悪い想像をし始めると止められない。
千歳はモップを強く握りしめて廊下を歩く。

どこへ行くのか宛なんてなかった。
ただ今は保健室だけには戻りたくない。
職員室へ戻ってきた千歳は大きく息を吐き出し、水道の水で喉を潤した。

思えば保健室へ避難してから飲まず食わずの状態が続いていた。
そういうもの、心が疲弊していく原因になりそうだ。

喉を潤した千歳は少し安心して、職員室後方にあるドアを開けた。