他のクラスの子に教科書を借りようとしていた若葉に声をかけたのは明宏だった。
明宏は同じクラスなのに若葉に次の授業で使う教科書を貸してしまったのだ。

『こんなの悪いよ。明宏が困るでしょ』
『俺は隣の席のヤツに見せてもらうから大丈夫』

明宏の方が半ば強引に自分の教科書を若葉に押し付けた形だった。
それを見た時は単純に困っているクラスメートをほっとけなかったんだろうと思っただけだった。

でも……。
『明宏、ごめん次の授業の教科書貸してくれない?』
ある日教科書を忘れてきた千歳がそう声をかけた。

しかし明宏は顔をしかめたのだ。
『俺だって教科書は必要だろ? 千歳は友達が多いんだから、他のクラスで借りれるだろう?』

明宏の言葉は正しかった。
借りようと思えば、他の子から借りることができる。