階段を駆け下りて若葉へと近づく。
若葉は獲物がやってきたと思って両手を上げて待ち構えている。

明宏はモップもバーナーも使うことなく、その中に飛び込んで行ったのだ。
突然の行動に千歳は声をかけることができなかった。
たとえなにか声をかけていたとしても、明宏は無視しただろう。

若葉に襲われるその前に、明宏は若葉にキスをしていたのだ。
「えっ……」
千歳が氷つく。

明宏は若葉を抱きしめて話さない。
若葉は徐々に顔色がよくなっていき、そしてまばたきを始めた。

それはゾンビを人間に戻すための行為で間違いがなかった。
明宏は若葉を一時的にでも救いたかったんだろう。

そう理解している一方で、千歳の胸にはいい知れぬ不安が湧き上がってきた。
今のは本当にそれだけの理由でしたキスだろうか?
そんな疑念が浮かんでくる。