今どき『子』という漢字を使うのも珍しく、それっぽい名前の生徒も見当たらない。
もしかしたら久子なんて生徒はいないのかもしれない。
そんな絶望感が押し寄せてきたとき、ドアの方からカタンと小さな音が聞こえてきた。

ふたりは動きを止めて目を見交わせる。
なにか嫌な予感がして振り向くことができなかった。

千歳はゴクリと唾を飲み込んで、古いロボットのようにカクカクと首を回した。
ドアの前に立っていた人。
それはゾンビ化した先生だった。

だけどさっきの化学の先生じゃない。
もっと屈強な、体育教師なのだ。

体育の男性教師はぎこちない動きで千歳たちを見る。
すると次の瞬間駆け出したのだ。

「キャア!」
千歳は悲鳴を上げて椅子から立ち上がる。
明宏がモップを握りしめて千歳の前に立った。