怖い怖いと思って行動しているから、幻覚が見えたんだ。
そう思って安堵したのもつかの間だった。

千歳は後ろから両肩を掴まれていたのだ。
その手は異様に冷たくて、人の体温が失われている。

一瞬にしてその場に氷ついてしまった。
ゾクゾクとした恐怖が足元から頭のてっぺんまで這い上がってきて、振り向くこともできない。

パーテーションの影で見た人物はこちらへ出てきていたのだ。
全身が震えて動けない。

目には涙が滲んで視界がぼやけてくる。
「た……助けて」

か細い声は明宏には届かない。
千歳はグッとモップを握りしめた。
後ろから肩に置かれている手はまだそこにある。