「わかってる」
ふたりは小声で会話している。
どれだけ注意を払っていても、足元はテスト用紙だらけでどうしても音が出てしまう。

千歳の背中に冷や汗が流れたときだった。
不意に右手に誰かいるような雰囲気を感じて顔を向けた。

そこには先生たちの給湯室があり、いつもコーヒーやお茶の香りがしている場所だった。
目隠し用のパーテーションで区切られている。
すりガラスのようになったパーテーションの向こうに、人の影が見えた。

それがゆらり、ゆらりと動いている。
千歳はハッと息を飲んで前を歩く明宏へ視線を向ける。

明宏は気が付かないまま書棚のある方へ向かっている。
もう1度パーテーションへ視線を戻すと、そこに人影はなかった。
まさか、さっきは見たのに。

目をこすってみても人影はない。
自分の勘違いだったのかもしれない。