育美が震える声で聞いてくる。
育美のこんなに弱っている姿を初めて見たかもしれない。

考えてみればこんな状況でも育美は常に育美だった。
そのくらい気を張っていたのかもしれない。

育美がしてきたことすべてを許すことはできないけれど、少しだけ育美の気持ちに寄り添うことならできる気がする。
「帰れるかどうかはわからないけどな。先生が言っていたようにバリケードがある場所まで行きたい。そうすれば助けてもらえるかもしれないから」

街を封鎖しているバリケードは街の始まりにある。
そこまで行くには随分時間がかかるし、街はゾンビたちで溢れている。

それでも、ここで犬死するよしはマシだった。
千歳は「わかった」と頷き、モップを握りしめる。

若葉もホウキを握りしめた。
そして青葉が育美にホウキを手渡す。
今度は人の後方で守ってもらえるわけじゃない。