そしてそれを回避することは難しいだろう。
そう思うと全身に冷たいものが走った。

もしかしたら次の瞬間には首を噛まれているかもしれない。
血を流して倒れている自分の姿が脳裏に浮かんできて、慌ててかき消した。

そんなことには絶対にならない。
私は絶対に感染しない!
だけど育美が力を緩めてくれる気配は感じられなかった。

それどころか、さっきよりも更に力が強くなっている。
それなら……。
千歳は抵抗をやめて目の前にある先生の唇に自分の唇を押し付けた。

一か八か、やってみるしかないと判断したのだ。
たっぷり5秒間キスをしたあと、ようやく育美の手の力が緩んだ。
千歳はその場に座り込んで唇を拭い、育美を睨みつける。

育美は額に汗を浮かべながら笑ってみせた。
「ほら、キスは私よりも千歳の方が上手だったね?」
嫌味のようなことを言われて怒りが湧き上がる。