それでも育美は一向に出てくる気配がなくて、千歳は苛立ちを感じ始めた。
こんなときになにをもたもたしてるの。
ガンッ!

ひときわ大きくドアを叩かれて千歳はビクリと体を跳ねさせた。
全身が細かく震え始める。

廊下にいるのは人間か、ゾンビか。
わからないはずなのに、千歳の脳裏にはトイレのドアを叩き続けるソンビの姿が浮かんできていた。
「ねぇ、廊下に誰かいるの?」

個室から育美が声をかけてきた。
ドアを叩く音は個室の中まで聞こえているみたいだ。
「いるみたい。だけど人間かゾンビかわからない」

「確認してみてよ」
「なに言ってるの!?」
1人でこのドアを開けて確認するなんてできるわけがない。
何度声をかけても返事はないし、ゾンビである可能性が高い。