幼馴染、なんかじゃない




あの日、私の初恋は終わった。


あれから間も無くして翔斗は遠い街に引っ越し、疎遠になった。


篠原くんには猛烈なアプローチを受けていたけど、結局私が生涯愛せるのはただ一人なんだろう。



翔斗。


友達とか、ただの知り合いとか、立場とか、年齢とか、家柄とか、そんなものに囚われない恋。


アイドルがその人のオタクと結婚するとか、会社の社長が底辺の社員と結婚するとか。


世の中には、そういう恋もたくさんある。



そんな中でも、私たちの“関係性”は一番難しかったんだ。



家族、と結婚。


そんなことできない。


でも、やっぱりだからといって、私たちが恋に落ちてはいけなかったことではない。


ずっと、考えてた。


翔斗が私に言った一言。

『俺とお前は、好きになってはならなかった者同士なんだよ』


そうかもしれない。

きっとそうだ。


でも、そうじゃない。


そうじゃないことは信じたい。



だって恋にはそんなこと、関係ない。


立場も、年齢も、仕事も、性別も、次元だって、何にも。

クラスの三軍女子が、一軍男子に恋して何が悪いの?


同じ性別の人を好きになって何が悪いの?


二次元に生きるキャラクターを好きになって何が悪いの?



それと一緒だよ、翔斗。


私と翔斗が一時でも好きになりあったんだったら、それを“好きになってはならなかった”なんては言わせない。





まもなく、ーーーー


電車を降りる支度をする。


機械音と共に、ドアが開いた。



上京してきた私の今日からの住所。


東京の町外れ。


新しい大学に、新しい出会い。


ひょっとすると、翔斗なんかよりいい人はたくさんいるかもしれない。


未知な世界に踏み入れた私の胸は期待で溢れていた。



駅の改札を潜って、外に出ようとした時だった。


微かに、昔嗅いだことのある何かの匂いがした。




後ろに気配を感じる。


「ダッフルコートとマフラーとタイツはダメだっつただろ。」

懐かしい声がする。

あの頃よりも少し低くなった、あの声。


「翔…斗?」


およそ3年ぶりの彼は、すごく大人っぽくなっていた。




「姉ちゃん、俺ら兄弟だろ?」



「兄弟が同じ家に住んで何が悪いんだ?」


もしかして、と思う。




「俺と一緒に暮らさない?」




まだ、信じられない。


本当に翔斗?



いや、違うはずがない。



なんでここを知ってるの?

どういう気持ちの変化なの?


思うことはたくさんある。



でも、今ここで聞くのは野暮だよね。



「すもっか、弟くん。」



翔斗の胸の中に飛び込む。



「今でもずっと好きだよ、翔斗。」


「俺も。」




私たちの恋は、まだ続きそうです。

 END