公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

「あ、そうだ。せっかくですから、エルーズお兄様も一緒に話しませんか?」
「え? 僕も? いいの?」
「はい。ケリーも、いいよね?」
「う、うん。僕は構わないよ」
「多分、サガードも許してくれると思うので、大丈夫です」

 ルネリアは、僕のことを誘ってくれた。
 久し振りに会った友達同士の会合に加わるのは、どうなのだろうか。
 そう思った僕は、あることに気づく。今、ルネリアはサガード様の名前を口にしなかっただろうか。

「サガード様? 彼が来ているの?」
「あ、はい。実は、そうなんです」
「どうして?」
「どうしてかは、まあ、色々とあったんです……」
「そ、そうなんだ……」

 僕の質問に、ルネリアは少し困ったような表情をしていた。どうやら、色々と事情があるようだ。
 サガード様がいるからといって、三人の会合に僕が参加していいかどうかは微妙な所である。友達の兄が友達同士の会話に馴染めるものなのだろうか。

「まあ、とりあえず行きましょう」
「え? あっ……」

 僕が悩んでいると、ルネリアが手を引っ張って来た。そのまま、僕は少し強引に連れて行かれてしまう。

「サガード、戻ったよ」
「おっ……うん? その人は……」
「エルーズお兄様だよ」
「いや、それは知っているんだが、どうしたんだ?」
「廊下にいたから、捕まえてきたの」
「捕まえてきたって……」

 客室に入ってきた僕に、サガード様は少し驚いていた。それはそうだろう。友達が急に兄を連れてきたら、誰だってそういう反応になるだろう。

「サガード、エルーズお兄様とも一緒に話すということでいいかな?」
「え? まあ、別に俺はそれで構わないけど……大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、お前の兄上はかなり困惑しているみたいだが……」
「え? あっ……」

 サガード様は、僕のことを快く受け入れてくれた。どうやら、彼は器の大きい人であるようだ。
 そんな彼を見ていると、自分が少し情けなくなってくる。僕の方が年上であるはずなのに、いつまでも困惑しているのはみっともないだろう。

「エルーズお兄様、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫だよ。サガード様、急に押しかけてすみません」
「あ、いや、別に問題ありませんよ。その……できることなら、仲良くしておきたいとは思っていましたし」
「……うん?」

 そこで、僕はサガード様の様子に違和感を覚えた。僕と話しながらも、彼はルネリアの方を気にしているのだ。
 その様子に、僕はだんだんと事情が理解できてきた。詰まる所、彼はルネリアに好意を寄せているということなのだろう。
 僕は、ルネリアとケリー、そしてサガード様とともに話していた。
 といっても、僕はあまり喋っていない。三人の会話を見守っている時間の方が、恐らく多かっただろう。

「ルネリアは、幼い頃は僕の後ろをいつもついて来ていたよね……」
「うん。ケリーのこと大好きだったもん。あ、今も大好きなのは変わっていないよ」
「そ、そうだったのか……」

 その会話を聞いていると、見えてくるものがある。この三人の関係というものは、案外複雑なことになっているようだ。

「だ、大好きか……」

 まず前提として、サガード様はルネリアに好意を寄せているらしい。
 以前二人を見た時も、そんな感じはしていたが、今日改めて確信できた。彼はまず間違いなく、ルネリアのことが好きだ。

「ルネリアは、そういうことを平気でいうよね」
「え? どういうこと?」
「大好きだとか、そういうことを言うのは、恥ずかしかったりしない?」
「……うん、別に恥ずかしくないよ?」
「ぐぬぬ……」

 そして、サガード様はケリーのことを男の子だと思っているようだ。
 先程から、彼は彼女に対して少し警戒しているような節がある。それはきっと、ルネリアに近しい男の子だと思っているからだろう。
 どうやら、ケリーのあの格好は普通の人からは男の子だと思われるような恰好のようだ。僕は、ここまで来て改めてそれを理解していた。

「ふふ、ルネリアは変わっていないみたいだね」
「ケリー、私が変わっていると思ったの?」
「うん、少し思っていたんだ。だって、貴族というと平民とはまったく違う暮らしになる訳だし、少しは変わっているかもしれないって、思っていたよ」
「そうだったんだ……それなら、安心してもらえたかな?」
「うん、安心したよ」

 ルネリアの言葉に、ケリーは笑顔を見せていた。
 その笑顔は、可愛らしい笑顔だ。どう見たって、女の子である。
 しかし、サガード様はそうは思わないらしい。ルネリアと仲の良い男の子が輝かしい笑顔を浮かべている。彼にとっては、今の笑顔はそういう悶々とした状況であるようだ。

「ふふっ……」
「な、なんだよ……」
「いえ、なんでもありません」

 そんなサガード様の様子を、ケリーは少し楽しそうに眺めていた。
 どうやら、彼女はこの勘違いをわかっていて、訂正していないようだ。
 なんというか、彼女も中々いい性格をしている。王族に対して、そんなことをするなんて、中々できることではないだろう。
 そう思いながら、僕は自然と笑顔を浮かべていた。端から見ている分には、中々面白い状況だと思ったのだ。
「……なんだか、今日のサガードは少し変だよね?」
「え?」

 そこで、ルネリアがサガード様にそんなことを言った。
 今日の彼は変。それはそうかもしれない。先程から、サガード様はケリーの言葉一つ一つにひどく動揺している。それは、ルネリアから見れば訳がわからないことだろう。

「そ、そんなことはないと思うんだが……」
「そうかなぁ?」

 この場に来てわかったことだが、ルネリアはサガード様からの好意をまったく気づいていないようだ。
 彼女は、少し鈍感な所がある。それはわかっていたことだが、ここまで露骨でも気づかないようだ。
 もっとも、彼女は時々とても鋭くなる。もしかしたら、些細なことがきっかけで、彼の思いを理解するかもしれない。
 それが、今であるという可能性もある。サガード様の変な様子が、彼女にその思いを伝えることになるかもしれないのだ。

「きっと、サガード様は緊張しているんじゃないかな?」
「緊張?」
「ほら、僕とサガード様は初めて会う訳だし……僕だって、平静に見えるかもしれないけど、緊張しているんだよ」
「そうなんだ……」

 そんなルネリアに、ケリーはそのように説明をした。
 どうやら、彼女もこれでサガード様の思いがばれるのは忍びないと思ったようだ。
 そのことに、サガード様は少し安心したような表情になる。ただ、直後に表情がまた変わった。恐らく、恋敵に助けられて複雑な感情なのだろう。

「まあ、そうだよね。ケリーは、美人だし緊張するよね?」
「え?」
「うん? どうかしたの?」
「あっ……」

 そこで、ルネリアはサガード様に声をかけた。
 その言葉に、彼は違和感を覚えたようだ。恐らく、ケリーが美人という部分が気になったのだろう。

「美人……確かに、まあ綺麗な顔をしているとは思う。だから、緊張する……だが、俺に別にそんな趣味はないぞ?」
「……サガード、何を言っているの?」
「いや、そうじゃないのか……」

 サガード様は、とても混乱しているようだ。
 それは、そうだろう。今まで男の子だと思っていた子が、女の子だったと理解するのは、それなりに難しいことであるはずだ。

「ルネリア、一つ聞いてもいいか?」
「何かな?」
「その……ケリーは、お前にとって兄弟みたいだと言っていたよな? それを具体的に言ってもらえないか?」
「具体的に……? えっと……お姉ちゃんみたいということでいいのかな?」
「なるほど……ありがとう、全て理解できた」

 ルネリアの言葉に、サガード様は天井を見上げていた。
 今、彼の中では、様々な感情が渦巻いているだろう。しばらくは、そっとしておいた方がいいかもしれない。
「……やってくれたな?」
「なんのことでしょうか……?」

 数秒天を仰いだ後、サガード様はケリーの方に目を向けた。それに対して、ケリーは目をそらす。
 当然のことながら、サガード様は彼女がわかっていて何も言わなかったと理解しているだろう。そのことで、彼女を睨みつけているのだ。
 だが、その顔は少し嬉しそうである。恐らく、ケリーが恋敵ではないとわかって、安心しているのだろう。

「……」
「な、なんだよ……」

 それに対して、ケリーは少し考えるような表情になった。
 その後、彼女はゆっくりとサガード様の方に近づいた。その顔は、何かを思いついたというような顔だ。

「僕が女の子だからといって、恋敵にならないとは限りませんよ?」
「な、何……?」

 それから、ケリーはサガード様に小声でそう呟いた。
 それに対して、彼は驚いたような表情になる。どうやら、サガード様はまたも混乱し始めたようだ。
 恐らく、ケリーは冗談でそう言っているのだろう。だが、サガード様としては気が気ではないようだ。それが表情によく表れている。

「サガード、どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
「そうなの? なんだか、少し顔色が悪いような気がするんだけど……」
「大丈夫だ。い、色々と混乱しているだけだ」
「それは、大丈夫じゃないんじゃ……」

 ルネリアは、サガード様のことを心配していた。
 それはそうだろう。彼は今、目に見えて混乱している。ケリーの言葉が、余程効いたようだ。

「いや、その……実の所、俺はケリーのことを男の子だと思っていたんだ」
「え? そうなの?」
「ああ、だから、混乱していたんだ……」

 サガード様は、ケリーのことを勘違いをしたことをルネリアに告げた。
 混乱しているのを誤魔化すために、少しだけ真実を話すことにしたようだ。
 それに対して、ルネリアは驚いている。ケリーを女の子だと知っている彼女からすれば、サガード様の勘違いは信じられないものなのだろう。

「どうして、ケリーを男の子だと思ったの?」
「え? いや、男の子みたいな恰好をしているし、口調も男の子みたいじゃないか」
「こんなに綺麗なのに?」
「いや、男でも綺麗な人はいるだろう」
「ああ、確かに………」

 そこで、ルネリアとサガード様が僕の方に目を向けてきた。
 会話の内容からして、僕が綺麗だと思っているということだろうか。
 それに対して、僕は苦笑いを浮かべる。どう反応すればいいかか、わからなかったからだ。

「確かに、エルーズ様は綺麗ですね」
「え? あ、その……ありがとう?」

 ケリーまでそう言ってきたため、僕はとりあずお礼を言っておいた。褒められているのだから、お礼を言うべきだと思ったのだ。
 色々と話した後、ケリーと村長は帰ることになった。
 私の村から、ラーデイン公爵家の屋敷まではそれなりに距離がある。村を長いこと開けることもできないため、それ程ゆっくりできる訳ではないのだ。

「ルネリア、それじゃあね。元気でね……」
「うん。ケリーも元気でね」

 私は、ゆっくりとケリーと抱き合った。
 彼女との別れは悲しい。だが、今生の別れという訳ではない。またいつか必ず会える。そう思いながら、私はその日までの思いを込めて彼女の体を抱きしめる。

「……」

 そこで、私はそんな私達をなんともいえない目で見つめているサガードの存在に気がついた。
 彼は、一体どうしたのだろうか。そういえば、ケリーと再会して抱き合った時も、彼はひどく混乱していたような気がする。

「あ、そっか……サガードは、あの時ケリーのことを男の子だと思っていたんだね」
「うん? ああ、来た時の話?」
「うん。だから、あんな反応をしていたんだよね?」
「多分、そうなんじゃないかな?」

 私の言葉に、ケリーは同意してくれた。
 確かに、私が急に男の子に抱き着いたら、それは驚くかもしれない。
 あの時は思わず抱き着いてしまったが、女の子と抱き着くのも、貴族では行儀が悪いとされるだろう。その相手が男の子だった場合、もっと大変なことだ。
 だから、サガードが驚いていた。それは理解できる。ただ、今はどういう意図で、あんな表情をしているのだろうか。

「……ルネリアは、サガード様のことをどう思っているの?」
「どう思っている?」
「同年代の男の子な訳だし、色々と考えたりしないの?」
「え? それは……」

 ケリーの質問に、私は言葉を詰まらせてしまった。
 サガードのことをどう思っているか。それは、非常に難しい質問であったからだ。
 彼のことは、大切な友達だと思っている。ただ、一緒に過ごしていく内に、私の中にはそれ以上の感情があるのかもしれない。
 しかし、それを私はあまり考えていなかった。サガードもそういうことは考えていないだろうし、あまり気にしない方がいいと思っていたのだ。

「えっと……」
「そっか……ちゃんと意識はしているんだね?」
「え?」
「それならいいんじゃないかな? ふふっ……」

 私が悩んでいると、ケリーはそんなことを言ってきた。
 その言葉の意味が、わからない。彼女は、どうして笑っているのだろうか。

「ルネリア、これから色々と大変かもしれないけど、頑張ってね」
「う、うん……」

 ケリーはそう言って、私から体を離していった。
 彼女は、一体何を言っているのだろうか。それについて少し悩みながらも、私はケリーと村長を見送るのだった。
 私は、キルクス様と話していた。
 今日は、色々な予定が重なった日である。キルクス様だけではなく、ルネリアが住んでいた村の村長さんと彼女の友達も訪ねて来ているのだ。
 そして、さらにこのラーデイン公爵家を訪ねて来た人物がいた。それは、キルクス様の弟のサガード様だ。

「それにしても、サガード様は本当に家によく来ていますね……」
「あいつのことか……それに関しては、本当にすまないと思っている。俺も、一応注意はしているのだが」

 私がそのことについて話を振ってみると、キルクス様は苦い顔をした。
 サガード様の振る舞いは、少々奔放である。それが、彼にとってはあまり快くないのだろう。

「でも、私は微笑ましいと思いますよ。だって、好きな女の子に会いに来ているという訳ですし……」
「ふむ……」

 私の言葉に、キルクス様は一度目を閉じた。それは、何かを考えているという様子である。
 サガード様がルネリアのことが好きだということは、二人の様子を見た人なら誰でもわかることだ。当然、キルクス様もそれはわかっているだろう。
 それは、別に悪いことではない。誰が誰を好きになったとしても、それは自由なことである。
 だが、問題がないという訳ではない。二人が結ばれるには、少々困ったことがあるのだ。

「……キルクス様はどう思っていますか? 二人のことに関して……」
「難しい問題だと思っている。ルネリアがサガードの思いを受け入れるかどうかはわからないが、もし仮に受け入れたとしても、二人が無事に結ばれるには障害がある」
「障害、ですか……」

 私の質問に、キルクス様はそんなことを言ってきた。
 やはり、二人が結ばれるには大きな問題があるだろう。王族と貴族、その地位が二人の恋愛に問題を生じさせてしまうのだ。

「そして、その問題とは俺達が関係している。俺とお前が婚約しているという現状は、二人にとって……少なくともサガードにとっては、悪い状況だろうな」
「そうですよね……」

 二人は、王族と公爵令嬢である。身分としては、婚約してもまったく問題はない。そういう面では、一つ障害がないといえるだろう。
 だが、問題は既にラーデイン公爵家と王家の間で婚約関係があるということだ。私とキルクス様が婚約している状態で、二人が婚約できるかどうかは微妙な所である。

「父上は寛大な方だ。ある程度の融通は利かせてくれる方だと俺は思っている。だが、今回の件に関しては、すぐに首を縦に振ることはできないだろう」
「王族としては、できるだけ偏りをなくしたいということでしょうか?」
「ああ、他の貴族からの反感を買うことになるはずだからな……」

 王族の兄弟が、同じ公爵家の娘を嫁にするというのは、他の貴族からすれば嫌なことだろう。
 国王様も、無闇に反感を買うのは避けたいはずだ。そう考えると、二人の婚約は難しいものということになる。
 私は、少し落ち込んでしまう。二人が結ばれるのに障害がある。その障害に、私達が絡んでいる。その事実に、なんだか悲しくなってしまったのだ。
「……サガードには悪いが」

 私が落ち込んでいると、キルクス様がそう切り出してきた。
 その表情には、少しだけ陰りがある。私は、とりあえず彼の言葉を待つ。

「俺はお前を手放したくないと思っている」
「キルクス様、それは……」
「弟や妹のために俺達が身を引く。そのようなことはしたくない。俺は、お前以上の婚約者は……妻は、いないと思っているからだ」

 キルクス様は、私の目を真っ直ぐに見てそう言ってきた。
 その言葉は、とても嬉しい言葉である。思わず笑顔になってしまう程には。
 サガード様には、本当に悪いのだが、私も彼とは別れたくはない。この婚約は、解消したくないのだ。

「ありがとうございます……嬉しいです。私も、キルクス様とは、別れたくないと思っています」
「そうか……」

 私は、キルクス様にお礼とともに素直な気持ちを伝えておいた。
 彼は、少しだけ照れているような気がする。それは、珍しい表情だ。そういう表情が見られるということにも、私は嬉しくなってしまう。

「……もちろん、あいつが俺に協力して欲しいと言ってきたなら、協力を惜しむつもりはない。最大限協力するつもりだ」
「……つまり、私達も二人も幸せになれる道を目指すということですね」
「ああ、そういうことになるな」

 私達の婚約を維持しつつ、二人も結ばれる。それが、一番いい結末だろう。
 それを成し遂げるのは、難しいことかもしれない。しかし、それでも実現を目指すべきだ。何もしていないのに、諦めるべきではない。

「……もっとも、そもそもルネリアがあいつの思いを受け入れるかどうかは、わからないのだが……」
「あ、そういえば、そうですね……」

 キルクス様の言葉で、私は気付いた。
 よく考えてみれば、二人が結ばれるかどうかは、まだわからないことだったのである。
 恐らく、今はまだサガード様の片思いだ。その思いが実るかどうかは、ルネリア次第である。

「実際の所、ルネリアはどうなのだ?」
「えっと……多分、悪い印象を抱いているという訳ではないとは思います。ただ、異性として好意を抱いているどうかは、微妙といいますが……」
「いい友達といった所か……」
「まあ、そうですね……」

 ルネリアは、今の所サガード様を異性として見ていないだろう。友達としか、思っていないはずである。
 少なくとも、私は彼女からそういう話を聞いたことはない。だが、サガード様のことを話す時は楽しそうにしているので、脈がない訳ではないだろう。

「……ふむ、まあ、しばらくは成り行きを見守るとするか」
「ええ、そういうことになりそうですね……」

 結局、私達の婚約と二人の婚約の問題と直面するのは、まだ先になりそうだ。
 もしかしたら、そうなると時には私とキルクス様は既に結婚しているかもしれない。そんなことを思いながら、私は苦笑いするのだった。
 キルクス様が帰った後、私は自室にウルスドとエルーズを呼び出していた。彼らと話したいことがあったからである。

「それで、どうして俺達を呼び出したんだよ」
「実はね……ルネリアのことで、話したいことがあるの」
「ルネリアのこと? なんだよ?」

 ウルスドは、私にどうして呼び出されたのか、まったくわかっていないようだ。
 一方で、エルーズはある程度理解しているのか、納得したような顔をしている。
 こういう時、エルーズはとても鋭い。彼のそういう所は、ルネリアとよく似ているかもしれない。

「ルネリアとサガード様のことなんだけど……」
「サガード様……それがどうかしたのか?」

 私が核心に迫ることを言っても、ウルスドはきょとんとしていた。どうやら、彼は事態をまったく理解していないようである。
 ここで、私は人選を間違えたことを悟った。よく考えてみれば、ウルスドも大概鈍いのである。

「姉上、なんでそんな目をするんだ?」
「ウルスド、あなたも大概鈍いわよね……これなら、まだお兄様の方が良かったかしら?」
「おい、なんか俺も兄上も馬鹿にしていないか?」

 基本的に、アルーグお兄様は鈍い。しかも、普段から忙しくしている人なので、今回は呼ばなかったのだ。
 ただ、事情を説明して頼りになる人ではある。ウルスドより彼を呼んだ方が、良かったかもしれない。

「要するに、お姉様はサガード様がルネリアに好意を寄せているということに関して、話したい訳だね?」
「ええ、そうなのよ」
「何?」

 エルーズの言葉に、ウルスドは驚いていた。驚いているということは、彼はサガード様の好意を理解していなかったようだ。
 そのことに、私は驚いていた。あれだけ露骨なのに、気づかないものなのだろうか。それなら、どうしてサガード様がこのラーデイン公爵家に来ると思っていたのだろうか。

「僕も、今日実際に見るまではわからなかったけど、サガード様はルネリアのことが好きみたいだよ」
「そうなのか……」

 どうやら、エルーズも今日その事実を知ったようだ。
 私は、少し頭を抱えてしまう。家の男連中は、どうしてこんなにも鈍いのだろうか。

「ま、まあ、そうなのよ。それで、二人に色々と聞きたいのだけれど……」
「そういうことか……まあ、それなら了解だ」
「僕達が力になれるかはわからないけど、できる限りのことはするよ」
「ええ、ありがとう……」

 二人は、私と話してくれる気になった。鈍い部分はあるが、家の男兄弟は皆優しいのだ。
 それに、私は思わず笑顔になってしまう。本当に、私はいい兄弟に囲まれたものである。
「だけど、サガード様がルネリアのことが好きだったとして、姉上は何が言いたいんだ?」
「あのね、ルネリアが彼のことをどう思っているのか、聞いておきたくて」
「ああ、そっちか」

 私が二人に聞いてみたかったのは、ルネリアがサガード様のことをどう思っているのかということだ。
 サガード様はわかりやすいのだが、彼女の方はよくわからない。その部分について、二人と話し合ってみたいのだ。
 だが、二人がサガード様の好意に気づいていなかったということは、それはあまりわからないのかもしれない。
 しかし、ルネリアもサガード様の話はしていたので、それを二人がどのように感じたかは聞けるだろう。そこから、何かわかる可能性はある。

「ルネリアがサガード様に好意を寄せているか、か……まあ、少なくとも、悪印象は抱いていないんじゃないか?」
「そうよね……それは、私もそう思うわ」
「恋愛的な好意を抱いているかどうかは、難しい所だな……そうも思えなくはないが、単に友達とも思えるし……」

 ウルスドは、大方私と同じくらいの認識のようだ。
 ルネリアは、サガード様と比べてわかりやすい様子はない。それがないということは、好意を抱いていないとも考えられる。
 だが、ルネリアは彼のことを語る時は楽しそうだ。友達として話しているとも考えられるが、好意を抱いているからそうなのだと考えられない訳ではない。

「エルーズはどう思う?」
「……僕は、ルネリアも少なからずサガード様に好意を寄せていると思うよ」
「え?」
「あら……」

 そんな中、エルーズはそのようなことを言ってきた。
 どうやら、彼は私達とは違い、確信的なものを持っているようだ。

「それも今日わかったことなんだけど、ルネリアが友達とケリーと別れる時の会話から、どうもそのように思えるんだ」
「そうなの?」
「うん、ケリーからサガード様に好意を抱いているかを聞かれて、ルネリアは怯んでいたんだ。少し怪しい態度だったよ」
「そうなのね……」

 エルーズの言葉に、私は思わず笑みを浮かべてしまった。
 エルーズは、鋭い部分がある。そのため、彼の認識は当てになるだろう。
 ということは、ルネリアはサガード様に好意を抱いている可能性が高いということだ。それは、中々楽しそうな状況である。

「なるほど、ありがとう。それはいい情報だわ」
「姉上、なんでそんなに楽しそうなんだよ……」

 エルーズのおかげで、良い情報が得られた。
 これは、これから色々と動いていくかもしれない。そう思い、私はまたも思わず笑みを浮かべてしまうのだった。