平凡な村娘だった私が公爵家の隠し子だと判明したのは、つい最近のことである。
早逝した母の葬儀が終わり、悲しみに明け暮れる私の元に公爵家の使いを名乗る人がやって来て、その事実が伝えられたのだ。
私が公爵家の人間であるということは、未だに信じられないことである。
ただ、当の公爵が母と浮気していたことを打ち明け、その結果できたのが私だと言っているらしいので、それは間違いないことなのだろう。
私は、ラーデイン公爵家で暮らすことになった。血筋の人間を保護するという名目で、私はここに連れて来られたのだ。
しかし、隠し子という立場で公爵家に連れて来られるなんて、私にとっては恐怖でしかなかった。どう考えても、疎まれる存在でしかないからだ。
それがどうしてこうなっているのか。私は自分の現状に対して、そのような感想を抱いていた。
というのも実の所、私の公爵家での立場は想像していた通りのものではなかったのである。私は、もっと別の扱い方をされているのだ。
「あら? ルネリア、どうかしたの?」
「お腹でも痛いの?」
「いえ、大丈夫です。なんでもありません……」
「そうなの? それなら、いいのだけれど……」
色々と考えて悩んでいる私を、二人の姉は心配してくれていた。
その視線は、慈愛に満ちている。どうして、こんな視線を向けてくれるのだろうか。
「何か悩みでもあるなら、相談するんだぞ?」
「一人で抱え込んでいても、いいことなどはないからな……」
「うん、僕も何かあったら言った方がいいと思うな……」
「は、はい……」
三人の兄も、お姉様達と同じように私を思ってくれている。どうして、ここまで気遣ってくれるのだろうか。
「ルネリア、遠慮はいらないのよ。私達は家族なのだから……」
「え、えっと……」
さらには公爵の妻、つまりは義母も私にそのようなことを言ってくれる。
それが、私にはわからない。浮気相手の子供に、一体どうしてそこまで言えるのだろうか。
とにかく、公爵家の人達は私にとても優しかった。
いびられたりする所か、私はとても丁重に扱われているのだ。
それに、私はただただ困惑するばかりである。私がそんな風に扱われる理由が、まったく理解できない。
隠し子である私に、そんな優しくできるものなのだろうか。簡単に兄弟として、家族として受け入れられるものなのだろうか。
そんな思いが、私にある考えを思いつかせていた。もしかして、公爵家の人々には何か裏があるのではないかと。
「調べてみる価値は……あるのかも」
私は、小さな声でゆっくりとそんなことを呟いた。
こうして、私は公爵家の人々の実態を調べると決めたのである。
私は、ラーデイン公爵家の人達のことを調べることにした。
まず第一の対象は、私の姉にあたるイルフェアお姉様である。
彼女は、二人いる姉の内の一人だ。ラーデイン公爵家の長女であり、兄弟でいえば二番目の上のお姉様である。
「……ルネリア? 私に何か用?」
「え?」
という訳で、私は物陰からイルフェアお姉様のことを観察していた。お姉様に付きっ切りでいれば、その本性がわかると思ったからだ。
しかしどうやら、見つかってしまったらしい。これは少し困った。もう出て行くしかない。
「え、えっと……貴族として、お姉様から何か学べることがあるのではないかと思いまして、こっそりついて来ていたんです」
「あら、そうなの? それなら言ってくれれば良かったのに……」
私の言葉に、お姉様は笑顔を返してくれた。
イルフェアお姉様は、いつも柔らかい笑みを浮かべる人だ。その笑みを見ていると、とても安心できる。
しかし、油断してはいけない。彼女にも、何か裏があるかもしれないのだ。もっと気を引き締めておくべきだろう。
「といっても、今日は別に特別に何かがあるという訳ではないから、私のことを見ていても学べることがあるかはわからないのだけれど……」
「いえ、お姉様の立ち振る舞いは、いつも綺麗です。なんというか、華やかさがあるというか……」
「そ、そうかしら?」
「ええ、私もどうやったらそうなれるのか、ずっと考えています。お姉様は、普段から何か意識されているのですか?」
「別に、意識はしていないのだけれど……」
私は、イルフェアお姉様に適当な質問をして誤魔化すことにした。
ただ、これは普段から思っていたことではある。イルフェアお姉様は、歩くだけでも華やかだ。どうしてそんな風に見えるのか、私は少し気になっていたのである。
しかし、お姉様はきょとんとしている。本当に、何も意識していないということなのだろう。つまり、その華やかさは生まれつき、ということだろうか。
「まあでも、貴族としての立ち振る舞いは子供の頃から学んでいた訳だから、無意識の内にそういう風にしているのかもしれないわね」
「そうですか……でも、その割にはオルティナお姉様は……あ、いえ、なんでもありません。今のは聞かなかったことにしてください」
「ふふ、あの子は少し奔放な所があるから、そう見えるのかもしれないわね」
私は、つい余計なことまで口走ってしまっていた。
もう一人の姉であるオルティナお姉様は、貴族らしからぬ人である。自由奔放とでもいうべきだろうか。彼女はそういう人なのだ。
平民だった私にとって、それは親しみやすい部分ではある。ただ、今の言い方は良くなかっただろう。単純に失礼である。
「ええっと……まあ、オルティナお姉様のことはともかくとして、イルフェアお姉様はなんというか、特別なような気がします。その特別さの理由を、私は知りたいと思っているのです」
「特別ね……そんなに大したことをしている訳ではないと思うのだけれど」
「そんなことはありません。お姉様は、すごいと思います。お綺麗ですし、優しいですし、どうやったらそんな風に柔らかい雰囲気を出せるのか、私にはわかりません」
「……ふふ、そんなに褒めても何も出ないわよ」
私の言葉に、イルフェアお姉様はまた笑みを返してくれた。
ただ、その笑顔には少し陰りが見えるような気がする。それは私の気せいだろうか。
「まあ、私のことを見ていたいというなら、別に拒否しようとは思わないわ。えっと……それじゃあ、行きましょうかしら?」
「あ、はい」
お姉様の言葉に、私は大きく頷いた。
こうして私は、しばらくの間イルフェアお姉様と一緒にいることになったのだった。
一日中ついていたが、イルフェアお姉様は特に何かを見せることはなかった。
考えてみれば、それは当然のことだ。例え裏があったとしても、一緒にいてそれを見せる訳がない。
ということは、やはり隠れて見守るべきだろう。ただ、イルフェアお姉様は妙に鋭いので、対象を変えるべきかもしれない。
「さて……」
という訳で、私はウルスドお兄様のことを観察していた。
彼は、三人いるお兄様の内の一人だ。真ん中の兄である。
「……ルネリア、もしかしてそれで隠れているつもりなのか?」
「え? あ、いや、その……」
「どうしたんだ? そんな風に隠れて……もしかして、何かやましいことでもしているのか?」
「そ、そんなことはありません」
隠れていようと思っていた私は、何故か見つかってしまった。
そんなにわかりやすかっただろうか。自分では、きちんと隠れているつもりだったのだが。
「うん? そういえば、姉上から聞いたな……なんか、姉上の立ち振る舞いを観察していたとか」
「え? あ、まあ、そうですね……」
「まさか、俺の立ち振る舞いも観察しているのか? 言っておくが、姉上と比べると俺から学べる部分は少ないと思うぞ?」
ウルスドお兄様は、そう言って笑っていた。
確かに、彼は貴族らしいという訳ではない。どちらかというと、オルティナお姉様に近いタイプだ。
「おい、今、心の中で納得していなかったか?」
「え? いえ、そんなことはありませんよ。ウルスドお兄様からも学ぶことは、たくさんあります」
「目が泳いでいるぞ?」
「気のせいじゃないですか?」
私の心を、何故かウルスドお兄様は読んでいた。何故、こんなにも簡単にわかるのだろうか。
「まあ、貴族らしくない自覚はあるから、いいんだけどな。俺は、兄上や姉上のようにはなれそうにない」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、俺はそういう堅苦しいのが、あんまり好きじゃないんだよ。もっと自由に生きたいというか……」
ウルスドお兄様は、少し悲しそうな笑みを浮かべていた。
もしかして、彼は貴族としての生活に不満を感じているのだろうか。もっとやりたいことがあるとか、そういうことなのかもしれない。
「おっと、悪かったな……あまり気にしないでくれ。自分でも、贅沢な悩みだと思っているんだ、これは……」
「え? えっと……わかりました」
ウルスドお兄様は、私の頭をゆっくりと撫でてきた。
よくわからないが、彼の中にも色々と悩みがあるようだ。それはきっと、私に相談しても解決することではないのだろう。
それは少し悲しい気がした。お兄様の力になれたらいいのに。そんな感想を私は、抱くのだった。
ウルスドお兄様と一日一緒にいたが、結局裏は見えなかった。
もちろん、それはイルフェアお姉様の時と同じだ。一緒にいたのだから、裏なんて見えるはずはない。
「楽しかったなあ……」
イルフェアお姉様やウルスドお兄様と過ごした時間は、とても楽しかった。
しかし、だからといって油断することはできないだろう。隠し子の私が、こんな楽しい時間を過ごせるなんて、おかしいはずだ。
でも、ラーデイン公爵家の人達が単純にいい人というだけなのではないだろうか。そんな考えが、私の中に浮かんできた。
「駄目駄目、そんな簡単に信用するべきではないよね……」
だが、私はその考えを否定する。相手は、公爵家の人々なのだ。そんなに簡単に信じていい訳ではないだろう。
色々と策略を張り巡らせるのが貴族だと、私は聞いている。だから、きっとここにも何かしらの策略があるはずなのだ。
「ルネリア、どうかしたのかい?」
「うぇ?」
そんな私に、横から誰かが話しかけてきた。
その方向を向くと、エルーズお兄様がいる。彼は、一番下の兄だ。
実の所、私は今日彼を標的に決めていた。どうして、私はこうも見つかるのだろう。ちゃんと隠れているはずなのに。
「エルーズお兄様、えっと……なんでもありませんよ」
「そう? 少し顔色が悪いように思えるけど……」
エルーズお兄様は、私のことを心配そうに見てきた。色々と考えていた私の様子を、具合が悪いと思ったようだ。
いつも穏やかで優しいのが、エルーズお兄様である。その優しさに、私は何度も救われてきた。
ただ、正直言って、その心配の言葉は彼にそのまま返したいと思うことがある。なぜなら、彼はいつも少し具合が悪そうに見えるからだ。
「うん? 僕の顔に何かついているのかい?」
「あ、いえ、そういう訳ではないんですけど……」
エルーズお兄様は、綺麗な顔をしている。男の人ではあるが、彼を表現するならかっこいいよりも美しいというべきだろう。
その綺麗さは、儚さとも言い換えられるかもしれない。なんというか、少し触れただけで壊れてしまいそうなそんな印象を受けるのだ。
「……何か悩みがあったら、打ち明けるんだよ。僕じゃなくてもいい。兄上達、姉上……オルティナでもいいから」
「は、はい。そうさせてもらいます」
「うん、それがいい」
エルーズお兄様は、ゆっくりと笑った。その笑みは、思わず見惚れてしまう程に美しい。
「それじゃあ、僕はこれで行くね」
「え? あ、はい……」
エルーズお兄様は、それだけ言って歩いて行った。
その後ろをつけていくことはできたはずである。だが、私はそれを追いかけなかった。秘密を探りたい。そういう気持ちが、微塵も湧いてこなかったのである。
私は、廊下を歩きながら少し考えていた。本当に、このままお兄様やお姉様のことを調べるのは正しいことなのだろうか。
エルーズお兄様のことを、私は調べたいとまったく思わなかった。その気持ちが湧いてきて、これからの調査のやる気があまり出なくなったのだ。
「一応、あそこにオルティナお姉様はいるけど……」
私の視線の先には、オルティナお姉様がいる。一応、彼女のことを調べようと思っていたからだ。
彼女は、二人いる姉の一人である。彼女は、下のお姉様だ。
ただ、あまり気は進まない。だんだんと、私は兄弟に疑念を抱けなくなってきているのだ。
「あれ? ルネリア?」
「あ、オルティナ、お姉様……」
そこで、私とオルティナお姉様の目が合った。
今回、私は別に隠れていない。気が進まなさ過ぎて、とぼとぼと彼女の後ろを歩いていただけだったからだ。
そのため、別に見つかるのはおかしくない。後ろを向いたら、普通に気づくだろう。
「ルネリア!」
「わあっ!」
私がそんなことを思っていると、オルティナお姉様が抱きしめてきた。結構距離は離れていたはずだが、一瞬でそれを詰められて、少しびっくりである。
しかし、オルティナお姉様はいつもこんな感じだ。私を見ると、すぐに抱き着いてくる。それが、お姉様なのだ。
「もういるならいるって、言ってくれればいいのに」
「え、えっと……すみません」
「別に謝らなくてもいいよ……それより、ルネリア、何か元気ない? もしかして、お腹でも痛いの?」
「あ、いえ、そういう訳ではありません」
「そうなの? 何かあるんだったら、お姉ちゃんに言ってよね? 私、ルネリアのためなら、なんでもするから!」
オルティナお姉様は、はつらつとした笑顔を浮かべていた。その笑顔を見ていると、なんだか元気が湧いてくる。
「あ、なんだかいい顔になったね?」
「え? そうですか?」
「うん、そうだよ。やっぱり、こうやってぎゅっとしているからいいのかな?」
「……そうかもしれませんね」
オルティナお姉様のおかげで、私にはすっかり活力が戻っていた。
やっぱり、暗い気持ちばかりではいけない。もっと明るくなるべきだ。
「そうだよね、こうやっていると幸せな気持ちになれるもん。間違いないよ。皆、どうしてこうしないのかな?」
「それは……色々と問題があるからじゃないですか?」
「問題? 何かあるの?」
私の言葉に、オルティナお姉様は首を傾げていた。
彼女は、貴族の作法だとかそういうことをまったく気にしない。そのため、こうやって抱き着くこともまったく気にしてはいないのだろう。
それは、平民だった私にとっては、接しやすいといえる性質だ。貴族としては、少々問題があるのかもしれないが。
オルティナお姉様から元気をもらった私は、調査を再開することにした。
暗い気持ちは吹き飛んだので、やる気が湧いてきた。真実を知るために、今日も私は行動するのだ。
「……よし」
という訳で、私は今日もとある人の後をつけることにした。
それは、アルーグお兄様である。私達兄弟の一番上のお兄様だ。
「……今日は、ばれないように」
私は物陰にしっかりと身を隠している。今日こそは見つからないだろう。あちら側から私は、どうやっても見られないはずだ。
「……そこにいるのは、わかっている。出てきたら、どうだ?」
「え?」
しかし、そんな私にお兄様はそう話しかけてきた。
それに、私は驚いた。今日こそは完全に体を隠せている。それなのに、どうして見つかったのだろう。
以前までと比べて、物陰から相手の様子を窺う回数も減らしていたのに、それでも駄目なのだろうか。なんというか、誰か尾行の方法を私に教えて欲しい。
「アルーグお兄様、どうしてわかったのですか?」
「……ほう。本当にいたのか。言ってみるものだな」
「え?」
アルーグお兄様が何を言っているか、私には一瞬わからなかった。
だが、すぐに理解する。もしかして、お兄様はかまをかけていたのだろうか。
「そんな顔をするな……簡単なことだ。お前が妹や弟をつけていたことは聞いていた。故に、俺にもついているのではないかと思ったのだ」
「そ、そんな……」
私は、お兄様の策略にまんまと引っかかってしまったようだ。それは、なんとも情けない話である。
でも、流石はアルーグお兄様だと思った。冷静でありながらも、大胆な面もある切れ者。それが、私が彼に抱いている印象だ。
今回も、その印象通りの行動を彼はしていた。やはり、アルーグお兄様はすごい人なのだ。
「……ふん、それでお前はどうして兄弟をつけたりしているのだ?」
「え? いえ、それは……」
「イルフェアに言った言葉が嘘であることは、既にわかっている。それが本当なら、他の兄弟をつける理由がない」
「うっ……」
アルーグお兄様は、冷静に私を詰めてきた。それは、とても優しい口調だが、少し怖い。
「お前が何を思っているかはわからない。だが、つけられるというのがあまりいい気持ではない。故に、お前がこれ以上それを続けるというなら、俺も少し強めに注意せざるを得ない」
「そ、それは……」
「……一つアドバイスをしておいてやろう。母上から話を聞け。それで、お前の憂いは晴れるはずだ」
「……え?」
アルーグお兄様は、それだけ言って去って行った。
残された私は、困惑していた。その話している内容が、色々と不可思議だったからだ。
お兄様は、私のことをどこまで理解しているのだろうか。それがわからない。
さらにわからないは、お母様から話を聞くということだ。一体、それで私の憂いの何が晴れるというのだろうか。
私は、アルーグお兄様に言われた通り、お母様から話を聞くことにした。
お母様とは、このラーデイン公爵家の現当主の妻にあたる人物だ。私にとっては、義母というか、継母というか、そういう存在である。
「ふう……」
私は、お母様の部屋の前でゆっくりと深呼吸した。
正直な話、彼女と話す時にはいつも緊張する。なぜなら、私という存在が、彼女にとってどういうものなのか、理解できているからだ。
お母様にとって、私は浮気相手の子供である。そんな私に対して彼女は優しいが、本当の所はどう思っているかわからない。
私は、それが怖いのだ。他の兄弟達もそうなのだが、お母様に関してはもっとそうなのである。
「……私の部屋の前で、何をしているのかしら?」
「え?」
そんな私に後ろから話しかけてくる人がいた。
後ろを向いてみると、とある人物がいた。それは、お母様である。
「え、えっと……実は、その、話したいことがありまして」
「私に? 珍しいわね……まあ、いいわ。中に入ってちょうだい」
「はい……」
お母様は、少し不思議そうな顔をしていた。
それは、そうだろう。私からお母様と話したいなんて、今までなかったことである。急にそんなことを言われたら、普通に驚くだろう。
「それで、私に話というのは?」
「え、えっと……」
お母様と対面して座って、私は少し言葉に詰まっていた。
アルーグお兄様に言われた通り、お母様に色々と聞くべきなのだろう。一番私に複雑な思いを抱いているはずの彼女から話を聞けば、私の答えは得られるかもしれない。
だが、それを言おうとすると言葉が出てこなかった。喉の奥で、何かが引っかかるのだ。
「……お母様に、聞きたいのです」
「……何かしら?」
「どうして……どうして、お母様は、それにお兄様やお姉様達は、私に……こんなにも優しくしてくださるのですか?」
「……」
私は、なんとか言葉を絞り出していた。無理をしたからか、少し喉の辺りが熱い。
そんな私の言葉を受けて、お母様は目を丸くしている。私の質問に、驚いているのだろう。
その後、お母様は悲しそうな表情になる。それが、どういう意味を持つのか、私にはわからない。
「なるほど……最近、イルフェア達をつけていたというのは、そういうことだったのね?」
「え? えっと……」
「その理由が知りたくて、つけていたのでしょう?」
「……はい」
私の言葉だけで、お母様は全てを理解していた。あれだけでここまでわかるなんて、驚きである。
ただ、こちらとしては話が早くて助かった。色々と言うべきことが省けたのは、今の私にとっては幸いなことだ。
「そうね……その理由を話してもいいわ。あなただって、知りたいでしょうし……ただ、これは私の考えでしかないわ。あなたの兄弟が何を思っているかまでは、私にはわからないもの」
「……それでも、聞かせてください」
「わかったわ……少し、長くなるけど、いいかしら?」
「はい……」
私は、お母様の言葉にゆっくりと頷いた。
こうして、私はお母様から話を聞くことになったのである。