進学を許されなかった私は、就職活動に専念した。
 手を貸さない、金も貸さない、自分が立花家の人間であることを公表しない。
 立花家からは、その条件で就職活動をするようにと言いつけられた。

 なりふり構わず就活を続け、受かったのは、全寮制で好待遇の、桜堂ホテルグループだった。
 問題は、この会社が桜堂財閥の傘下であること。
 私は母の旧姓『氷室』を名乗って、就職をした。
 それから、立花家とは一切かかわってはいない。

  *

 桜堂ホテル・トウキョウで働き出してからも、目立たないように必死に過ごしてきた。
 目立たなければ、注目されない。注目されなければ、一介の従業員として働ける。

 けれどもし、今回のことで、私が立花家の人間だとバレてしまったら。
 不手際のあった人間として、調べられたらきっと簡単にバレてしまう。
 
 そうなったら、ここから追い出されてしまうだろう。

 追い出されるだけですめばいい。
 もっとひどい未来が待っているかもしれない。

 恐々としながら、上昇を続けているらしいエレベーターのモニターを見つめる。
 それが55階を示すと、エレベーターが止まった。

 扉が開く。
 ごくりと固唾を飲み込んで、私はエレベーターから55階に降り立った。