連れてこられたのは、オーストラリアで住んでいたよりもずっと大きなお屋敷だった。

 日本はオーストラリアよりずっと小さい国だと思っていたから、そのお屋敷の大きさに、余計に圧倒されてしまった。

「いいこと? お前の父は駆け落ちをした、立花家の恥。本来、私たちがお前を保護する理由はない。これは慈悲よ。ありがたく思いなさい」

 そう言われ、屋敷の一階の隅の、北側の埃っぽい部屋を与えられた。
 どうやら父は立花財閥の御曹司だったが、母と駆け落ちをしオーストラリアに移住したらしい。
 父と母がよく日本へ出掛けていたのは、立花家に二人の結婚を認めさせるためだった。

 私は、父の恥。立花家の恥。
 そんな劣等感を抱いて、毎日を過ごした。

 大屋敷の中にいても、私は独りぼっち。

 幸せな過去に囚われて生きていても仕方がない。
 幸せな日々は、どうあがいても戻らない。

 不運な自分が生きていくには、そうやって現実を受け入れるしかなかった。

 北向きの部屋は、少しだけ西日が入る。
 そこから暮れゆく街を見て、あの歌を歌う。
 それだけが、心の支えだった。

 そんな私が生き方を変えられたのは、それから8年後の、18歳の時だ。