父と母は、仕事でよく日本へ出掛けていた。
 その日も、友人の家に預けられた私は「行ってらっしゃい」と父母を見送った。

 けれど。

「速報です。ブリスベン国際空港を今日午後に飛び立った旅客機が、太平洋沖で墜落した模様です」

 テレビに映し出された映像を見て、呆然とした。
 大海原の上で、燃え上がる飛行機。
 まるで海に沈む夕日のように、赤々と燃える空、黒い煙。

 父と母が、死んだ。

 その日は雲一つない快晴で、夕焼けが憎いくらいにキレイだった。
 私は海に沈む夕日に向かって、震える声であの歌を歌った。

  ♪you and me, you and me,
   sunset over the sea~

 けれど、夕日を一緒に見る人はもういない。
 私は、ひとりぼっちになってしまった。

 そんな私を迎えに来たのは、父の親戚だと名乗る女性。

「あの人もこんな忘れ形見、残すなんて」

 彼女は有無を言わせぬ圧があり、私は彼女に従って日本へ向かうことになった。

 右も左も分からない日本へ向かうくらいなら、この飛行機も落ちてしまえばいい。
 約8時間の初めてのフライトの間、ずっとそう願っていた。